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春 5
女性が一際高く啼いたあと崩れ落ちるようにベットに寝転び動かなくなった兄。
その後気だるげに抱き合う2人を見て我に返った。
1歩ずつ後ずさり足音を忍ばせて階下に降り、ランドセルを掴むと外に飛び出した。
勢いで家を飛び出したものの行くあてなど小学生の薫にはない。
公園のベンチに座ってみたものの寒くてたまらない。
学校へ戻ろうかといつもの通学路を歩きながら目に付いた市立図書館に寄ってみた。
暖房の効いた館内は暖かく冷え切っていた体を温めてくれた。
午後の早い時間に現れた小学生に司書が声をかける。
薫は学級閉鎖になったが、鍵を忘れて家に入れなかったと嘘をついた。
義兄の帰宅までここで過ごしたい、学級閉鎖の間に読む本も借りたいと言う薫に司書は貸し出しカードを作り、ビデオライブラリーに案内してくれた。
少し前に流行った映画にアニメ、それから落語など書架に並ぶタイトルを眺めたが、脳裏に浮かぶのはさっき見た義兄の背中だった。
嘘をついた罪悪感と覗き見をした罪悪感。
気を抜くと涙がこぼれそうになる。
顔でも洗おうかと振り向いた先に見知った顔を見つけた。
何度か家に遊びに来たことのある義兄の友人が自習机に座ってこっちを見ていた。
テスト勉強をしていたのか広げられたテキストと電子辞書。
それらをざっとまとめ鞄に放り込むと薫のそばに来てくれた。
「薫、学校はどうした?」
優しく問いかけられそれまで我慢していた涙が流れ出す。
びっくりした彼は薫をロビーに連れ出し自販機で温かいココアを買ってくれた。
誰もいないベンチに2人で座る。
そして薫が落ち着くまでずっと背中を撫でてくれた。
その手の優しさに薫は全てを、さっき見た光景をしゃくりあげながら話してしまった。
「ああ、あいつも迂闊だな」
頭を抱えるようにして彼、森本陽平が呟く。
「薫お前、家に連絡は?親から裕人に連絡いってんじゃね?」
そう言ってどこかに電話をかけた。
「裕人?お前今どこ?」
義兄だ。
陽平はちらっと薫を見ると立ち上がり離れていった。
しばらくして戻った陽平は薫の髪をくしゃっと撫でて言った。
「あいつには偶然図書館でお前と会ったって言っといた。本を借りてから俺が送るから安心しろってな。帰りが遅いって心配してたぞ?」
薫の顔を覗き込み笑いながら言う。
「まぁヤってる間はスマホも見てなかったんだろうけどな。さっき親からのメール見て慌てたらしい」
泣き疲れて呆然としていた薫だが、陽平のあけすけな口ぶりに思わず笑ってしまった。
「俺もあいつもヤリたい盛りの年頃だからな、まさかお前が帰って来るとは思わなかったアイツを許してやれよ」
「陽ちゃんも?ああいうことやりたい?」
「ああ、そりゃもちろん」
キッパリ言い切る陽平に薫は吹き出した。
ショックで固まっていた思考が動き出す。
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