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春 6
落ち着いて考えてみるとアレが性教育で習ったセックスなのだろう。
教科書では実感がわかなかったけれど、男女が繋がるという行為は想像以上に激しく生々しかった。
あんなこと誰もがやっているというのか。
薫は吐き気を覚えた。
飲みかけのココアは冷え切ってそれ以上飲む気はしなかったが一気に飲み干した。
粘つく甘さが口に残る。
込み上げる胃液を甘さで誤魔化し笑ってみる。
「びっくりした。いつものお兄ちゃんじゃなかった」
陽平は薫と目を合わせると困ったように笑った。
あの時の義兄達と同じ歳になってみて分かることがある。
家族の情事を目撃した小学生を相手に16歳の高校生が何を言えるのだろう。
陽平は黙ったまま薫の肩を抱き寄せぽんっと頭を叩いた。
「見なかったことにしてやれるか?」
陽平は言いにくそうに続けた。
「見られたと知ったら気まずいどころじゃないし、俺ならお前の顔もみれないよ」
「僕だって!」
どんな顔して会えばいいかわかんないよ…
また涙が流れそうになる。
だけど。
やっと家族になれたのに、これで家の中がおかしくなるなんて。
最近よく笑うようになった母の笑顔が曇る様なことはしたくない。
「見なかったことできないけど、なるべく見なかったことにしとく」
なんだそれ?
陽平は笑った。
「何かあったら俺が話を聞くから。薫お前スマホ持ってるか?」
「タブレットならあるよ」
陽平はノートを取り出しさらさらと何かをメモして薫に渡した。
「これ俺のメアドとラインのID。使い方はわかるよな? 帰ったら登録しとけよ。涙が止まったら本借りて帰ろうか」
ほら、顔を洗って来い。
促されて手洗いで顔を流した。
鏡の中には赤らんだ瞼で情けない顔をした自分がいた。
大人になれば誰もが経験し普通に営む行為。
それは分かっている。
だけどこんな形で知りたくはなかった。
目をそらすことさえ出来ず魅入った自分がいる。
そして熱を持ちゆるゆると立ち上がるあの部分。
薫を魅了したのは……
しなやかに踊る兄の背中だった。
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