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春 7

結局あの日は瞼の腫れが引くのを待って陽平に送られて帰宅した。 顔を合わせるのを心配していた義兄とは間に陽平が入ってくれたこともあり、ごく普通に接する事が出来たと思う。 その晩鬱々と眠れぬ時間を過ごした薫は明け方ひんやりとした感触に目を覚ました。 浅い夢の中に出てきた義兄の痴態、それを見て興奮したのだろうか。 薫はその日初めての夢精を迎えた。 昔のことを思い返しながら重い足で家に向かう。 下を向いて歩いていた薫の足が、あるカフェの前止まった。 ガラス張りの店内を覗き込み、忙しそうに働く陽平を見つけると迷わずカフェに入っていく。 「いらっしゃいませ。お、薫久しぶりだな」 「陽ちゃん今日バイトだったんだ」 挨拶もそこそこにカウンターに陣取る。 地元の国立大学に進学した陽平はあれから何かと薫を気にかけ、県外の大学に進んだ義兄が家を出てからは家庭教師の真似事までしてくれる。 義兄には素直になれない薫も陽平の前では甘える事ができた。 家に遊びに来た他の友人に、どちらが兄か分からないと言われ寂しそうな顔をした義兄を思い出す。 はぁ、と知らずに漏らしたため息。 カウンターの向こうでその様子を見ながら陽平が薫に訊ねる。 「どうした?ため息なんてついて」 ほらココアと、注文もまだの薫の前にカップを置く。 いつまでも子供扱いするんだから、と恨めしく思いながら甘ったるいココアに口をつける。 湯気を立てるココアはあの日の思い出に繋がり薫の胸になんとも言えない感情が広がった。 あの日を境に変わってしまった兄との関係、兄への感情。 それを知っているのか、わざとココアを出した陽平を上目遣いに見た。 「お前ね、その顔は反則。どこで覚えたんだよ」 ちょっと顔を赤らめた陽平が言う。 何を言ってるのか分からない薫は首を傾げ、それを見た陽平が頭を抱える。 「自覚なしかよ……」 「何の自覚なの?」 「ともかく!そういう顔は他で見せたらダメだから!」 わかったか?と言われて、訳が分からないままうなずいた。

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