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初夏 1

季節の移り変わりは意識の外で確実に進み、気がつけば新緑の季節を迎えていた。 薫は生き生きとした芽吹きを感じられるこの季節が好きだ。 その若葉を濡らしていく雨でさえも。 ぼんやりと雨に濡れる校庭の樹木を眺めていると購買に行っていた立花が戻ってきた。 昼休み開始のチャイムで飛び出しパン争奪戦に参加して来たらしい。 パンの入った袋とパックの牛乳を机に置くと窓際で外を眺めていた薫の視線を追った。 「雨か。夕方までもつと思ったんだけど。高橋傘持ってる?」 「置き傘が1本あるはず」 「さすが!用意周到だね~バス停まで入れてってよ。ほら早く食べよう」 立花はぼんやり立つ薫を促すと席に戻って行った。 雨に濡れる校庭から教室に目を向け薫も席に戻った。 席替えまでの間は五十音順並びのため立花と薫の席は前後になる。 必然的に距離は近づきなんとなく行動を共にするようになった。 春休みの1件から雰囲気の変わった薫の周りに人が集まり、口下手なりに上手く付き合えるようになった。 今までどれだけ自分で間口を狭めていたのか。 誰とでも気さくに接する立花が隣にいるのも影響しているのだろう。 通学バックから弁当箱を取り出し机に広げた。 毎日朝早くから作ってくれる母に感謝しながら箸をつける。 立花は早くも2つ目のパンに齧り付いている。 購買のパンは市内のベーカリーからその日の焼き立てが届けられる。 人気のベーカリーのパンが割安で食べられるとあって毎日争奪戦となっている。 もちろん普通の菓子パン類もあるのだが、どうしても見劣りしてしまう。 争奪戦に敗れたクラスメイトはそちらに流れ、恨めしそうに立花のパンを見ていた。 「立花、それ今月の限定?」 「そうそう、さくら餡のデニッシュ」 「うわ、それ絶対美味しいだろ!」 さくら餡のデニッシュ?あんパンじゃなく? お昼は大抵お弁当持参の薫は今まで購買のパンを食べたことがない。 興味を惹かれ立花の口元を見るとこちらを見ていた視線とぶつかった。 「高橋も食べたい?」 思わずうなずくと、ほら、と立花が食べかけのデニッシュを差し出した。 一瞬躊躇したもののそのままぱくっと食いついた。

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