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夏 1

長かった梅雨が終わると一気に日差しが強くなりうんざりする暑さがやってきた。 校庭の木々は生い茂り涼し気な木陰をつくってくれる。 体育館からの帰り木陰を選んで歩きながら薫は隣の立花を仰ぎみた。 この数ヶ月ですっかり馴染んだポジション。 教室移動や登下校を共に過ごし少しづつ距離を縮めてきた。 警戒心の強い薫を何かとフォローし細々と世話を焼いてくれる立花。 甘やかされている自覚はある。 でもなぜ人あたりもよく友人も多い立花が自分のそばにいてくれるのか。 訊ねてみたいと思っても口に出すことは出来ずにいる。 今の心地よい関係が変わってしまう気がして…… 「あ、薫。自販機寄ってもいい?喉渇いた」 同じ事を薫も思っていたので素直にうなづく。 気が合うのか、立花が察してくれてるのか。 こういう些細なことが積み重さなって薫の警戒心も解けてきた。 いつの間にか高橋から薫へと呼び方も変わり、違和感を覚える暇もなく馴染んでいる。 元々の内向的な性格があの冬の出来事から輪をかけて内に向かった薫に、ここまで気を許した友人はいなかった。 表面上の付き合いから薫のその殻を破ったのは立花が初めてだった。 1歩近づけば2歩下がる薫の性格を受け入れてくれたのも。 初めての友人と呼べる存在。 去年まではただのクラスメイトだったのに、今では薫の心の大きな場所を占めている。 自販機でそれぞれ水とお茶を買い教室に戻った。 あと1時間で今日の授業は終わりとなるが、薫も立花もそれぞれ課外を受ける予定になっている。 体育の後の昼下がり、心地よい疲労感。 眠くならないわけがない。 薫の斜め前の席では英井が頬づえをついたまま寝息を立てていた。 こくりこくり揺れる首の襟元に見える赤い痕はなんだろう? 薫は見るとはなしに眺めた。 虫刺されにしては腫れてない。 そういえば最近よくついている気がする。 授業が終わりそれぞれ課外の教室に移動する時間になったが、薫の視線はどうしても英井の襟元に向かってしまう。 その視線の先に気づいた立花は一瞬固まったが、薫を置いて英井の元に足を向けた。 教室から出ようとした英井に声をかける。 「アンジ、ちょっといい?」 立花はいいからこっちへと廊下へ連れ出し、英井の耳元で何か話している。 英井の反応はなぜか照れ笑いで、しきりに首すじを気にしている。 そして2人で薫の方を見て吹き出した。

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