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夏 2
何かおかしいことをしたのだろうか?
思い当たることは無いけれど薫は自分が人の心の機微に疎いことが分かっている。
知らずに不快感を与えてしまう自覚もある。
それが怖くて今まで壁を作って来たようなものだ。
「どうかした?」
考え込む薫の元に立花が帰ってきた。
さっき薫を見て笑ったのが嘘のように普通の態度の立花に戸惑う。
何かしたわけじゃないのか。
ほっとした薫は安堵のため息をもらした。
そんな薫を見て不思議そうに立花が問う。
「何?なんなの?」
「こっちが聞きたいよ!なに笑ってたんだよ」
反射的に本音を返した。
普段感情的になることのない薫にしては珍しい、噛み付くような口調に立花はまた笑った。
「なんでもないよ」
くしゃっと薫の髪をかき上げながら言う立花にさらに言い募る。
「じゃなんで笑ったんだよ」
「なんでって……薫が可愛いから?」
「何だよ、それ」
「ほらほら、そういうとこ」
さらにくしゃくしゃと頭をかき混ぜられ薫は立花から離れた。
上目遣いで立花を睨む。
立花から見たらせいぜい子猫が毛を逆立てた程度のものだ。
少し拗ねたような態度も可愛いと思える。
本人が聞いたら眉をひそめるような事を考えながらとりあえず謝っておく。
「気に触ったならごめん。そんなに深い意味はないよ」
「英井と僕を笑ってたのは何で?」
まだ食い下がる薫を見てまた笑う。
「薫、何でさっきアンジを見てたの?」
質問に質問で返され納得出来ない薫は黙り込んだ。
それはあの赤い痕が気になったから―――
英井の首元にいくつも残る赤い痕。
「アンジの首見てたよね。キスマークが気になる?」
「キスマーク?」
あれは虫刺されじゃなかったのか。
キスマークの言葉は知っていても実際に見たのは初めてだ。
「虫刺されとでも思った?」
見透かされたような立花の言葉に苛立つが、そういう方面に鈍感なのは確かだ。
同意の意味でうなづいた。
「だからだよ。そういうとこが可愛いなって笑ってた」
「そういうとこって……」
「アンジに見えるとこは気をつけろって言ったらアイツ、薫は気づいてないだろって言うからさ。振り向いたらぼーっとした薫と目が合って思わず笑っちゃったんだよ」
「子供っぽいってこと?」
「違う、違う!いや違わないか?」
どっちなんだろうと考え込む立花に毒気を抜かれて薫も笑い出した。
つまらないことで言い争ったりするのも立花とが初めてだ。
「キスマークなんて初めて見た。どうやったらあんな跡がつくのかな。口紅じゃないみたいだし」
薫がぽろっともらした言葉に立花がまた吹き出した。
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