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青嵐 3

一般的には夏休みの期間とはいえ、薫達の通う東陵学園では普段通りのタイムスケジュールで夏期講習が行われている。 夏期講習は学校側から強制的に受けさせられるものではなく、それぞれ自分の目指すコースにあった教科を選択し自主的に受けている。 朝早くから夕方までめいっぱいに詰め込んだ薫に対し、ゆとりのある選択をした立花は空き教室で次の授業までの時間を潰していた。 エアコンの効いた教室は他にも同じように時間を潰す生徒でそこそこの密度になっている。 当たり前だけど男ばかりの教室を見て思わず小さく笑ったが、それだからこそ煩わされず静かに過ごせると思い直した。 メッセージアプリの通知に震えるスマホを眺めていたが、目を通すことなく電源を落とした。 中学時代の知り合いと偶然会ってからしつこいほどメッセージが送られてくる。 世間一般が夏休みでもみんながみんな遊んでいる訳ではないのが理解できないらしい。 婉曲に断っても繰り返し遊びの誘いをかける女にはうんざりする。 自分の基準でしか物事を計れず、相手にもそれを押し付ける傲慢さと幼さに辟易するが、迂闊に繋がりを切ると思わぬトラブルを引き寄せる。 当たり障りのない対応をしてフェードアウトするのが得策か。 適度につかずはなれずの距離、でもそれが1番難しい。 適度な距離感。 それは今の立花と薫を言い表すのに最も適した言葉だ。 1年見守り続けてようやく少し縮んだ距離。 だがそれ以上は容易に近づけない距離。 春から夏へと季節が流れ、それでもまだ一定のラインを超えられずにいる。 クラスの中では仲の良い友達、それが今の立花だ。 薫には他人には立ち入らせないボーダーがある。 それは精神的だけではなく物理的にも。 ある程度親しくなってから気づいたが、薫は他人との接触を嫌う。 立花には触れさせても、他のクラスメイトとの接触はさりげなくかわしている。 それに自分の内面に踏み込まれるのも避けている。 当たり障りのない会話には積極的ではないが加わるようになっているが、矛先が自分に向きそうな気配を感じるとすっと離れていく。 去年から感じていた違和感。 人見知りだから、と薫は笑うがそれ以上の何かがあるような気がしてならない。

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