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三部 Lovers-17
「まあそんな感じで、次の日声かけるってことになっちゃって」
「……バカだな」
帰宅して食事と入浴を終え、自らいれた紅茶を飲みつつ、眉を寄せた透の言葉に、淳哉はハハッと笑って、ブランデーのグラスを揺らす。
「その年頃なんて、みんなそうじゃない?」
作っておいたクレソンのピーナッツオイル和えをつまみにブランデーを飲んでいる横顔を、透はうさんくさそうな横目で見る。
「そうか?」
「そうだよ。だってさ」
そこで言葉を切って「透さんも食べなよ」とクレソンの皿を勧める声に、眉寄せたまま手を伸ばし、フォークを使ってくちに運んだ。塩味が絶妙でにんにくの香りがしてピリッと辛みもある。これなら食えるな、と頷いた透のしかめ面を満足げに見て、淳哉はまたブランデーをひとくち分喉に流し込んだ。
「だっていろいろ知りたくて情報交換したり映像見たり、そんなことばっかりやってるからエッチな知識はどんどん増えるのに経験が伴ってないからさ」
穏やかな声に目を向けると、淳哉は懐かしむように眼を細めていた。
「女の子の自分と違うトコっていうか、胸とかお尻とか唇とか、そんなのばっかり目に入っちゃうし、辞書見てもテキスト見ても、微妙な単語がエッチに見えて妄想しちゃったりとか。みんなそうだったよ?」
「馬鹿だな。そんなことより勉強とかの方が大事だろ」
ムスッと呟く恋人の肩に腕を回し、「そうなんだけどさ」言いながら淳哉は髪にくちづけた。
「でもエッチしたくてたまんなくて、頭がそればっかりになっちゃうっていうか。みんなそうでしょ、それくらいの年頃なんてさ」
「俺はそんなこと無かったぞ」
胡乱な横目を向けつつ、顎を押しのけるような手の動きなどものともせずに腕の力を強め、「ああ~、そっか」頬を髪に擦りつけながら淳哉はクスクス笑う。
「だから猥談してないんだね。いたいた、そういう感じのやつ」
「なんだよ、そういうやつって」
「だから、すかしてるっていうか、性欲なんて無いぞって顔してるやつ。無いわけないのにさ、なにカッコつけてんのって」
からかうような口調で笑みを向けられ、透はムッとして言い返す。
「ほんとに無かったぞ、俺はそんなの」
睨まれると、淳哉は目を見開いて肩を竦めたが、ぎろりと睨むような目線は変わらない。
「ははっ、ゴメンゴメン」
身体を引いてホールドアップの形に両手を挙げたが、変わらない恋人の表情に少し眉尻を下げ、苦笑の表情になる。
「でもそんなの想像つかないよ。自分は性欲でギンギンなんだもの」
「そういうので騒いでたのはいた。それは俺も覚えてる。バカかと思ってた」
「なるほどね~、お互い理解できないものをバカにしてたわけだ」
淳哉が感心したように言うと、透も視線を緩め、それでもしかめ面のまま頷いた。
「まあ当然か。それくらいなんての子供なら……ガキだったんだな」
「……そうだね。良くも悪くも」
目を細め呟いた淳哉をじっと見ていた透は、髪に手を伸ばし、ガシガシと乱暴に乱した。
「偉そうに分かったようなこと言うな。おまえなんて、まだぜんぜんガキだろうが」
乱暴な手付きにずれた眼鏡を直そうともせずに、淳哉は楽しげに声を上げて笑った。
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