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三部 ジュニア・ハイ-6
AVを見ていたキースが、経験談を語りあおう、と言いだした。
こいつはエロい話が大好きだ。
DVDとか本とか、とにかくエロいものを誰よりたくさん持ってて、いつも自慢してるけど、自分で買ってるわけじゃなく、三人いるお兄さんからお下がりをもらえるからだってことを、この部屋にいるみんなは知ってる。
とにかく、目を爛々と輝かせたキースは「おまえは? 初めてエッチどうだった?」なんて一人一人に聞いたんだけど、
「オーマイガッ! なんで全員チェリーなんだよっ」
天を仰いで呆れたような大声をあげ
「キスならしたことあるけど」
お菓子を食べながら言ったデニスに怒鳴り返す。
「キスだって?! ガキかよ!」
「うるさい」
アニメのDVDを見ながらフランツが淡々と呟き、分厚い本を読みながらリックは肩を竦める。
「去年まで俺ら児童だぞ。セックスしたって犯罪被害者扱いになるのがオチだ」
淳哉は、ヒュー、と口笛を吹き「おお賢い。さすが」と囃した。
リックはすごく頭が良いし、いろいろ知ってる。まったく勉強してないように見えるけど、物理や数学なら十二年生(高校三年)にも負けないだろう。
しかし茶化す淳哉を無視して、ケニーがスクワットしながらに言った。
「ていうかおまえだってチェリーのくせに」
「だって知りてえだろ」
「俺はヤリてえ……」
デニスが切なく呟くと、キースはみんなを見回しながら言った。
「つうか初めて同士って悲惨らしいぞ」
「悲惨? なんで」
デニスが問うと、キースはニヤニヤと説明する。
「うまくやれないと痛がって女の子泣いたり、かなりきまずいんだって。だから年上の……」
「年上の女か!」
デニスの声に、ケニーが応え、スクワットをやめる。
「そうそう! 年上のお姉さまだよ~。ぜったい痛がらないし、むしろ気持ちイイんだって、俺聞いたぞ」
おお、と声漏らしつつ、みんな一斉に手を止めた。
「気持ちいいんだ……」
「えっ、なになに? よがるってこと?」
「経験してるひとに、教えてもらうんだよ」
「教えてもらうって、えっと、やり方とか?」
「気持ちイイやり方かよっ! うわヤリてえ‼」
くちぐちに呟きながら、みなやっていたことをやめて自然に集まり、床に輪になって座った。
「そっかー、年上かー」
「なるほど、どうしたら気持ちイイとか、年上なら知ってるというわけか」
「けどなんつって聞くんだ?」
「……お姉さま、ぼく初めてなんだ、教えてよ」
上目遣いに甘えた声を出す淳哉は、次の瞬間、一斉にアタマを小突かれる。
「それおまえじゃなきゃ使えねえワザだろ!」
「やめろやめろ俺らにその目つき」
「つうか、凶悪だな!」
「リーサルウェポンか!」
邪険な一斉攻撃を浴び、淳哉はいったん避難する。
「へえ~、兄貴三人もいると、そういう情報入っていいな」
「いいことないって、ぜんぜん。兄貴なんてぜんっぜん使えねえよ」
キースが吐き出すように言って、みんな微妙に笑う。いつも兄貴の悪口ばかり言うのだ。
「ていうか誰だよ、年上が気持ちイイとか言ったの」
リックが言うと、キースはニッと笑った。
「マット。十年生のフットボールの」
「おお~、あの無駄なマッチョ」
乱れた髪を直しながら戻った淳哉が半笑いの声を出した。
「でもあいつ、ヤリまくってるって」
みんなを見回しながら少しだけ笑ったキースの声に、すぐに食いついたのはデニスだ。
「マジか! まくってるって、彼女と?」
「んなわけねえじゃん」
「え、じゃあ何人もとヤッてんのかっ!」
「決まってんだろバカ」
「うらやましい! うらやましすぎる‼」
「おまえ欲望に忠実すぎるぞ」
淡々とケニーがツッコむが、デニスは気にしない。
「やっぱフットボールもてるんだ~」
「合気道じゃダメ?」
「アニヲタよりましかな」
「えっ、そんな程度っ?」
「おい俺をネタにするな」
黙っていたフランツが、憮然と口を挟んできた。
アニメ好きなんだろ、文句言うな、とみんなにつっこまれても、聞こえていないように淡々とした口調のままだ。
「なんでマットが無駄なんだ」
「え、そこつっこんでくる?」
淳哉が声を上げると、リックが鼻を蠢 かしながら言った。
「フットボールやってるし顔もまあまあだからモテるけど、ただのバカだろ」
「あいつ腹立つ」
ケニーが鼻を鳴らした。こいつはフットボールにうるさい。選手になるのが夢だけど、この中で一番身長も低いし、この間声変わりしたばかり。細くて小さいのを気にしてるけど、誰よりすばしっこい。
「バカすぎて試合で失敗ばっかりだし。あんなの試合に出すなよ」
「でもよ、ガタイいいだろ」
デニスは筋トレを欠かさない筋肉オタクだ。Tシャツの袖をまくって力こぶを作り、がっかりしたように腕を隠した。
「デカイし胸板厚いし、腕なんてこーんな太いんだぞ」
(デニスもじゅうぶん腕太いと思うけど。まあそれ以外も太いけど。つまりちょっと太ってるけど)
そう思いながら淳哉は唇を尖らせた。
「でもやたら威張るし、やなやつだよ」
先日マットに「どけチビ」と言われたのを根に持っているのだ。
「あんなのがモテるなんて、女はバカだ」
淳哉が憤然と言うと、キースがニヤリと笑った。
「ばっか、女がなんであいつがいいかなんて、アレが凄いからに決まってんだろ」
一瞬、沈黙が落ちて、みんなの視線がキースに集まる。
「……すごいのか」
押し殺したようなケニーの声に、キースはニヤニヤとみんなを見回して、自慢げに言った。
「シャワー室で見たんだ。同じ寮だからな。マジですげえぞ」
なぜかひそひそ声になるキースに釣られたように、みんな顔を寄せてひそひそ声になった。
「すげえって……」
「どんくらいだよ」
リックとフランツが押し殺した声でほぼ同時に向けた問いに、キースはまたニヤリと笑う。
「……こんくらい」
キースの示した大きさに、全員息を呑んだ。
申し合わせたように、それぞれ自分の股間に目をやってすぐ目を逸らす。ゴクリと誰かが唾を呑む音が聞こえた気がした。
「……うっそ」
「ありえない」
「それ人としてアリか?」
「マジか……」
「見たんだって」
重ねて言うキースの腕を、リックが「一度聞けば分かる」と叩いた。
「ていうか、デカけりゃ良いのか女は」
「そりゃデカイ方が良いんじゃねえの」
「ええ~、そこはテクで持ってくべきじゃ?」
そう言った淳哉に全員の視線が集まった。
「……だ、だって、天然の素材より努力が報われる方が」
もそもそ言い訳すると、デニスがじっとりと横目を向ける。
「テクって、いきなりできんのか」
「そこは学習する感じで」
「学習って、どこですんだよ」
キースがバカにしたような顔で言ったので、淳哉はムキになる。
「だから、年上の、経験豊富なひととさ」
「最初に戻ったな」
フランツが淡々と言う。
だがさっきの興奮が後を引いて、鼻の頭には大粒の汗が光っていた。他の面々も同様で、赤くなった顔や汗ばんだ顔が並んでいる。
ケニーがやけに強い目で淳哉を睨んで言った。
「……じゃあヤッてこい」
「えっ」
みんなの注目を浴びて、淳哉は真剣に焦った。
「や、ヤッてって、だ、誰と」
「だからさっきのワザだよ」
「教えてよ、てやつ」
「うん、あの顔なら、いける」
「女は顔で騙せる」
「顔だけ見たら、こういうやつだと思わないもんな」
「こういうやつって、どういうやつだよっ」
くちぐちに言われ、淳哉は小さく声を上げたが、きっぱりと無視された。ケニーが声変わりしたばかりの低い声で再度言う。
「……ヤッてこい」
「えっ、いや、そんな」
みんなの妙にギラギラした視線を浴び、どっと全身に汗をかいた淳哉は、抗弁を試みる。
「そもそもテクを磨くって話で」
しかしまたもきれいに無視される。
「顔は資源だぞ。ヤッてこい」
「教えてもらえ。そして俺たちに教えろ」
「実体験を聞くのはいいな」
「うん、その方が実践的だ」
くちぐちにみんなが言うなかで、ケニーだけが強い視線を淳哉に向けたままだ。
「そんで、俺らに誰か紹介しろ」
「そこかよ!」
悲鳴じみた淳哉の大声で、顔を寄せていた輪が崩れ、なぜか全員が大きく息を吐いた。
そこから通常音量の会話に戻る。
「だってジュンが一番相手見つけやすいだろ。顔でモテるんだから」
「俺クラスでおまえのこと聞かれるぞ」
「俺も。適当に流すけどな」
「あっ!」
唐突に声を上げたキースにみんなの目が集まった。
「ジュン、おまえすぐヤれるぞ!」
キースは人差し指を淳哉に向けながら興奮気味に続ける。
「いただろ! ほら、十一年生の、赤毛の‼」
「……ああ、演劇部の」
フランツが頷きながら呟いた。みんなもくちぐちに言い出す。
「胸デカイ」
「お尻も」
「道場にも来てた」
「クラスにも来てる。あれジュン狙いだろ」
「そんなの俺らいねえし」
「使える。その赤毛は使える」
「そうかもだけどっ!」
みんなの視線が痛すぎて、淳哉は思わず声を張る。
「名前も知らないよ!」
間髪入れず、全員の声が揃った。
「「「聞けよ‼」」」
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