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三部 ジュニア・ハイ-11

 その日、彼女の部屋に行くのは三回目だった。  もちろん行ってすぐセックスに突入した。  淳哉は女性の身体について自主学習し、覚えたテクニックを彼女の身体で試すことでより実践的な知識を得て、今日はだいぶリードできたと思う。  一回目の射精こそ挿入してすぐだったけれど、二回目、三回目と回を重ねると、より長時間の行為が出来る。最後には彼女に「もう許して」と言わせるまでやれたので、彼女も満足しただろうと判断出来た。淳哉自身も満足を覚えつつ身体を離す。  こんな風に思う通りに感じさせたりなにかを言わせたり出来る。淳哉はセックスが非常な満足感をもたらすことを知った。彼女とセックスするようになってから、淳哉はどんどん自分に満足できる部分が増えていくのを実感している。  ぐったりと息を荒げている彼女の胸を触りながら、淳哉は先日部屋でくちぐちに責められたのを思い出し 「ああ、そうそう」  軽い調子の声を出す。 「忘れるところだった。友達がセックスしたいとかってうるさいんだよ。誰か紹介しろって」  軽く汗はかいているが、スポーツ後のように心地良い疲労感は爽快感すら呼んでいる。上機嫌な声に、彼女は気怠げに笑い、手を上げて淳哉の髪を撫でる。 「紹介くらい、いいけど。でもそんな若い子はいないわよ」 「そのほうがいい。大人の女性の魅力について、僕が語っちゃったからさ」  胸を触りながら甘えた声で言うと、彼女は嬉しそうに眼を細める。 「そうなの?」  もちろん、年上の女性に教えてもらうことがいかに有意義か、淳哉は得々と自慢したのだ。 「うん、だからみんな大人の魅力を体験したいって」 「しょうがないわね。でもこの部屋はダメ。外で」 「どこでもいいよ」  上機嫌な笑顔で適当な声を出した淳哉に、彼女はキスをする。 「可愛い」  愛しげに目を細めた彼女に、淳哉もニッコリと笑みを深め、チュッと唇をついばんだ。  彼女の瞳に映っているのが誰なのか。この間はあんなに気になったことだけれど、今の淳哉はそんなことはどうでも良いと思う。  重要なのはセックスを楽しめるかどうかだ。それには相手を楽しませることも含まれる。  セックスで得られる快感は、射精によるものだけでは無い。狙った通りに声を上げさせる、一度は言いたくないと首を振った言葉を言わせる。それには相手を感じさせることが必要だ。まだまだ研究の余地はあるけれど、いずれは思う通りに快感を覚えさせられるようになるのだ。そうなれば、もっと満足を感じられるだろう。  そういう期待を自分に向けるのは、とても愉快な気分になれることだと淳哉は知った。 (そうだよ。今はまだガキだけど)  将来の自分に期待することはできる。もちろん期待を裏切ることが無いよう努力が必要だけれど、それで今までより段違いに自分を好きになれるということを淳哉は知ったのだ。これはとても大きなことだった。  クスクスと笑いながら、しばらくじゃれ合うようにキスを重ねていたが、彼女は「ちょっと待って」と囁いて身を起こし、ベッドから出た。  全裸のまま乱雑な部屋をかき回し、戻って来たとき手にしていたのはフリーの情報誌だった。ベッドへ潜り込んで待っていた淳哉に身を寄せ、ページを繰る。 「どこがいいかな。行きたいところはある?」  彼女が見せるので、淳哉もフリーペーパーを覗き込む。しかし四ヶ月間ここに来る以外学校から出ていない淳哉には、マンチェスターの街のことなど分からない。 「そうだなあ。みんな食べるの好きだし、食事が出来るとこかな。ああでも大人の女性にイイトコ見せたいんじゃないかな。スポーツとかゲームとか」  適当に当たり障りない言葉を返し、最終的に郊外にあるアウトレットモールへ行くことになった。カジュアルでリーズナブルなレストランがあり、買い物もできるしスポーツジムもあるここなら、みんな楽しめるだろう、と彼女が言うのに納得したからだ。  寮に戻って、相変わらず部屋で待ち構えていた皆に首尾を伝えると 「よくやった!」 「ミッションクリアだな!」  などとくちぐちに絶賛され、淳哉はまたも自分への満足が高まるのを感じた。  二日後には彼女の部屋へ行って、みんなの反応を交え面白おかしく報告し、もちろんセックスもした。  そして週末。  いつもの六人でモールへ向かった。セックス出来るという期待ではち切れそうになって、みんな異常にテンションは高い。  レストランへ入ると、彼女達はすでに簡素に仕切ったパーティールームに入っていた。  メイクも薄く物静かな感じの彼女と違い、連れの女性たちはみな派手で賑やかで、淳哉は違和感を覚えたが、おくびにも出さずに、まず自己紹介をしよう、と提案する。  全員が紹介しあって、淳哉はそこで初めて、彼女がアビーという名前だと知った。それまで四回セックスしていたのに、淳哉は彼女に名前を聞いていなかったのだ。  ともあれ、総勢十二名でのランチパーティーが始まった。仲間は全員、学校で見かける女の子とは全く違う、大人の女性を前にして、興奮し、緊張し、張り切っており、いつも部屋でだらだらしている連中と同じとは思えないほど、はしゃいでテンション高くやる気に漲っている。  ケニーが率先してバカを言い、笑いを誘って空気を暖めると、そこに淳哉が乗っかり、デニスが食いついてリックが話を盛る。最後に淡々とフランツがオチをつけると、女性たちは楽しげに笑ってくれる。  そうなると、元々ノリの良い仲間達は受けを狙ってヒートアップしていった。キースはすぐ話をエロくするので、黙ってろと厳命されていたが、すぐ耐えられなくなって口を開いてしまい、NGワードを口にする度、仲間に小突かれながら、笑いを取っていた。女性達が楽しんでいる様子に、さらに盛り上がっていく。  彼らは旺盛な食欲を見せ、女性達は笑顔であれも食べろこれも食べろと勧めてくれる。食べっぷりを褒められれば皆オーバーアクション気味に食べまくる。それは傍目に和やかと見える集まりであったが、少年達の頭の中には性欲が充満していた。  楽しい食事は一時間半ほどで終了となった。  会計中、アビーが淳哉の耳許に「二人でどこか行きましょう」と囁いたので、みんなに笑顔でそう告げ、先に店を出た。  お腹がいっぱいだと言い合いながら二人でモール内を歩き、様々な店を冷やかした。  アクセサリーショップで、アビーが「かわいい」と言ったネックレスを、淳哉は買ってあげた。店員が袋に入れようとするのを断って手渡すと、「信じられない」と小さくいいながら目を潤ませ、頬を紅潮させた。  ほんの安物なのに、ビックリするほど喜ぶアビーに驚きつつ「つけてみなよ」と言うと、「あなたがつけてくれないの?」と流し目を向けられた。 「ああ~、そういうもの? OK、じゃあつけてあげる」  そういったものの、ネックレスなんて触ったこともない。金具についてアビーからレクチャーを受け、四苦八苦しながらなんとか装着を完了する。 「これを自分でつけるって? いったいどうやって? 手許見えないだろ」  本気で不思議になって聞くと、アビーは可笑しそうに笑い「簡単よ」と腕を組んできた。腕が胸に押しつけられ、髪から甘い香りがして、淳哉は簡単に欲情した。耳許に口を寄せ「ねえ、エッチしたい」と囁くと、アビーはクスッと笑い 「あなたって、本当に男の子なのね」  と謎なことを言って、部屋へ帰ろうとタクシーを拾った。  タクシーの中でもキスを繰り返し、胸を触る淳哉に、「ダメよ、部屋まで待って」と言いながら、アビーも笑っている。部屋に入って、互いに服を脱がせ合い、すぐにベッドに倒れ込んでもつれ合った。  身体を重ね、快感を貪る淳哉に、アビーは何度も「ジュン」と呼んだ。けれど淳哉が彼女の名前を呼ぶことはなかった。

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