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三部 ジュニア・ハイ-10
学校に戻ったのは、もう夜中だった。
出る時より警備は薄くなっていて、わりと容易に敷地内に入り込めた淳哉は(大丈夫かここの警備)と疑問を感じつつ、学校の敷地内を堂々と歩いた。入ってしまえば散歩だとかなんとか、どうにでも言い抜けできる。
部屋に入ると、いきなり「遅い!」と言う声と共に部屋で思い思いに寛ぐ五人を発見して、「うわびっくりした」と思わず声が出た。
デニスと二人でグラビア誌を見ていたキースが、腕組みして淳哉を見ている。リックはなにか分厚いテキストを読んでいて、フランツは勝手にアニメを見ていたし、ケニーはなぜかフットボールのユニフォーム姿でスクワットをしていた。
「で、赤毛とヤってきたか?」
キースが言って、淳哉は「ていうか、なんでいるんだよ」とそっけなく返す。
「おまえには監視が付いてるって言ったろ」
「塀を越えたから、今日なんだなってな」
「速攻だな、とは思ったけど」
「まあ寮でヤるのは危険だしな」
「賢い選択だ」
「しかし赤毛はどうやって出たんだ?」
「どこで待ち合わせしたんだよ」
「アリシアとはヤってない」
「……とは 、ってなんだ」
片眉上げてつっこんだケニーに、ニッと笑ってみせる。
「結果的にヤればOKなんだろ? アリシアでなくても」
淳哉が言うと、みんなの視線が集まり、沈黙が落ちた。
あれ? と思いながら見回しすと、なぜか恨みがましい視線が向けられている。
「なんだよ、おまえらがヤれって言ったんだろ。だから僕は任務遂行の為の努力をした。違う?」
ニッコリと言うと、リックが押し殺した声を出した。
「……むかつく。なに余裕かましてんだよ」
それが口火となった。
「つまり別の女とヤッてきたのか」
「誰とだよ」
「そんなのいつ知り合った」
「今日一日見てたけど、赤毛以外に近づいた女なんて」
「いないよな」
「いや」
デニスが呟くような声を出した。
「バーガーショップで……でもあんな一瞬で?」
デニスが言葉を発さず淳哉を見る。ケニーが不審げに「なんだ?」と問うても視線は動かない。
淳哉は仕方なく、肩を竦めて言った。
「チャンスの神様の前髪はつかまなくちゃね。簡単だったよ」
次の瞬間、怒号のような咆吼を上げるデニスに始まる、興奮した声を浴びる。
「しー! 静かにしろよ。うるさく言われるようになったら面倒だろ」
淳哉の抑えた声に、一同はくちを噤み、部屋には沈黙が落ちた。
個室とは言え、寮の壁はそう厚くない。そして同じ階にいるのは最上級生と寮長。もう夜中なのだ。指導を受けるような羽目になっては今後やりにくくなる。
とはいえ連中の視線はギンギンなままだ。注目を浴びている現状に一躍ヒーローの気分になり、得々と今日のエキサイティングな体験を語った。
自分でやるのとは段違いの快感について。柔らかい体は別の生き物のようで、それを征服したような充実感があった。そう語ると、細部について質問が飛んだ。それに答える気分も、なかなか悪くない。
けれど実のところ拍子抜けするほど淡々とことは進んだし、色々覚えなきゃと必死だったし、そこまでたいしたことじゃないなと思ったのだが、意識して大げさに話を盛った。
それに彼女の指示通りにあちこちを触ったり吸ったりして、手順は覚えた。次からはもっとうまくやれる、と自信も付いた。淳哉は今日の夕方の自分より、今の自分の方が気に入っていた。
みんなに彼女の名前や年を聞かれ、それをまったく知らないことに淳哉は気づいたけれど、また「聞けよ!」と罵声を浴びても「なんで?」と笑い返した。
「名前とか、なんの意味があるって? ヤらせてくれるなら誰でもイイじゃない」
「おまえ最悪だな!」
「むしろクズだな」
「その顔でそういうこと言うか?」
「顔だけなら天使みたいなのに」
「騙しまくりだよ」
「でもまた行く約束したよ」
「それを先に言え!」
キースが怒鳴った。
「静かにしろって」
「黙れ! とにかく次に行くのはいつだ」
それでも声を抑えながら続けたキースに「なんで?」と問い返す。
「誰か紹介しろ」
「そうだ、俺だってヤりたい」
デニスが続く。
「おまえいい気になるなよ」
リックが素っ気なく言った。
「俺らだって一発ヤれば」
ケニーが拳を握る。
「自分だけなんて許されないぞ」
アニメの画面から目を離さず、フランツが淡々と言った。
「……分かったよ」
勝者の笑みでみんなを見回し、「次、そういう話してみる」ニッコリと言うと、みんな渋々といった様子で、それぞれ頷いていた。
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