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四部 シニア・ハイ-8
もちろんジャスはバージンじゃなかった。
ベッドに押し倒して下だけ下ろし、いきなり突っ込もうとしたら「痛い」と騒いだので動きを止めると、濡らすことが必要だとレクチャーしながらポケットから潤滑ジェルを出したのだ。
ちゃっかり用意してるのに笑ったけれど、自分でケツの穴拡げるのを見てたら興奮してきて、途中から淳哉もケツの穴に指突っ込んでみた。
前立腺マッサージをされたことはあったので、見よう見まねで弄ったら、めっちゃ反応良くて滾 って、そのまま無理矢理突っ込んだ。痛がったからもっと拡げるべきだったみたいだけど、その時は我慢出来ずにグイグイ押し入ったら血が出たが、構わず腰を使った。狭くて締まってかなり気持ち良かった。
最初痛いと涙見せてたジャスも、途中から恍惚としちゃって、自分より上の立場の男に声上げさせてるのが自分だと思ったら、かなり良い気分で、性欲以外の部分で、かなり満足した。
なかなか良かった、と思い返してニヤつく淳哉を、フランツは冷ややかに見返した。
「そこまで節操ないか」
「ヤれりゃ、なんでもいいじゃん。おまえもそう言ってたろ?」
「男なんて、ありえない」
「なんとでも言えよ。おまえにやれなんて言ってないし、僕の勝手だろ」
フランツは肩を竦め、なにも言わずに部屋を出て行ってしまった。
それから週二回、家庭教師が来る日はセックスする日になった。
出すモノ出してすっきりすると、淳哉は勉強に戻る。するとジャスも、気怠げにデスクにつき、いつも通りの風景となった。淳哉はすぐに集中し、ジャスも準備してきた通りに指導をする。
だが回数を重ねるうちに、その風景は無くなった。激しく責められ疲労困憊の域に達したジャスが、行為を終えると眠り込んでしまうようになったからだ。
なににつけ向上心のある淳哉は、微に入り細に入りジャスに問いかけながら行為を進めた。ジャスが息を詰め、抑えきれぬ声を上げ、身を震わせ、やがて射精する様をつぶさに観察し、どこで最も感じたか問いかけた。その情報を持って図書館へ行き、解剖学の図録を借りて男の身体について調べ、痛覚を適度に刺激することも含め、男の快感のメカニズムを頭にたたき込む。
そうして男の身体を喜ばせるノウハウを確実に身につけるべく努力したのだ。これは女性相手のセックスを覚えたばかりの頃に行った事で、淳哉はその経験を今回トレースした。これがかなり有効だと知っていたからだ。
最初こそ一度の射精で終わらせた淳哉だが、ヤりたい盛りで征服欲の強い十六歳は、自分が満足するまで組み敷いた身体を責めた。やがて、それまで知らなかったほどの快感に溺れたジャスは、声を抑えるのが困難なほどの快感に翻弄されるようになり、教え子の手から解放されると、疲れ切って眠りに落ちるようになってしまった。
セックス後、意識を失うように眠ってしまうジャスを見て、相手が自分のセックスに満足していると感じ、淳哉も性欲以外の部分でおおいに満足した。
ひとりで勉強した後、夕食の時間が来ればジャスを起こし、共に部屋を出る。家庭教師を送り出す淳哉の、それは見慣れた光景だったので、誰も疑問に思わない。
とはいえ、ジャスとセックスしたことを伝えて以来、フランツが目を合わせなくなっていた。一人で部屋に来る事もなくなったことに、淳哉は気がついていたが、いつも通り深く考えずに流した。おおむね以前と変わりない生活ができていたので、兄が迎えに来るまでの間、淳哉は機嫌良く過ごせたし、問題無いと考えた。
兄一家と出発する前日、欲求不満を抱えずに済んだ淳哉は、ジャスに清々しいほどの笑みで『八月末まで不在になる』とだけ告げた。どこへ行くとも、連絡をするとも言わないそれは、単なる業務連絡に過ぎないもので、そのとき家庭教師がどんな表情をしていたかなど、淳哉はまったく覚えていないのだった。
バカンスを終えてドイツから戻ると、寮に入る前にフランツに声をかけられた。
「おいジュン」
「おお~、久しぶり~」
お気楽な挨拶には、苦虫を噛み潰したような顔が返った。
「分かったぞ」
「え、なにが」
二ヶ月以上前の話なんて、すっかり忘れて問い返すと、ため息混じりの声が返る。
「市街のドラッグストア。俺らのこと探してるって言ってただろ」
「ああ~、アレね! うんうん」
軽い返答に、フランツの片眉が跳ね上がる。「本当に分かってるか?」と疑わしげに問われ、「分かってるって、やだなあ」淳哉はニコニコと頷いた。
いつも愛想良く人好きする笑顔でいるが、実のところ淳哉があまり他人に興味が無い事など、四年以上共に行動していた仲間には丸わかりだった。こいつは自分が愉しい状態で居続けること以外、あまり考えていない。だが淳哉の“愉しい状態”の中に、仲間との時間が入っていることも分かっていた。
「で、なんだったの」
あくまで軽い調子の淳哉に、眉間に皺を刻んだフランツは「恨むぞ」と低い声を出した。
「ヘ~イ、なんだよいきなり」
肩を竦めた淳哉の陽気な声には、水色の眼を細めた厳しい眼差しが返る。
「サマースクール中止もガールハント自粛もぜんぶおまえのせいだ」
睨まれてきょとんとしてからニッと笑い「ヘイ、怒ってるのか?」と言っても、フランツからは沈黙しか返ってこない。淳哉は両手を挙げて降参のポーズをしつつ苦笑を向けた。
「僕のせいだって? なんのことだ?」
「俺、先週末ドラッグストアに一人で行ってみたんだ。二人だと目立つと思ったしな。そしたらマスターが、今日はおまえがいないのか、って聞いてきた。夏前にイタリア系の年増が来ておまえの写真を出してから、この東洋人が来てないか聞いたんだとさ」
「は? イタリア系? 年増だって?」
見せられたのは少し前の淳哉の写真だった。おそらく一年か二年前、笑顔でカメラを見ている。
淳哉は写真を撮られる事を基本的に拒否する。だからこんな写真は存在しないはずだった。
だが甘んじてカメラに笑顔を向ける事が、無いわけではない。
「そうだ。大女で黒髪。情報には謝礼を払うと女が言ったからマスターは俺らに連絡を付けようとしたんだ。……似ているが違う、おまえはもう帰国して、今は母国にいると言っておいた。東洋人は見分け付けにくいからな、マスターも納得していた」
淳哉がカメラに笑顔を向けるのは、兄一家と一緒の時、合気道の昇段試験に合格した時、そしてマウラに命じられた時、だけだ。つまりこの写真は……
「……他の店にも行ってたみたいだぞ。ほら、このカード置いてったんだと。あー、……クローチェ? ジョンソン」
「ああ……マウラ」
呟きながら頭を振る淳哉に冷たい視線を向け、「聞いた事あるな。おまえの保護者だったか?」と問うフランツからカードを受け取り、「そうだよ」と答えつつ名前と連絡先を確認する。間違いない。
「なんでもおまえが来たら連絡くれ、なんだとさ」
「またなんで?」
「知るか」
フン、と鼻を鳴らして、フランツは背を向けた。
「知り合いなら自分で聞けよ。とにかく、もうおまえとは行かないからな。帰国したんだ、おまえは」
「……ああ、うん。分かった」
やたらつんけんしているフランツが手を振って去って行くのを、ほけっと見送った淳哉は、苦笑気味に肩を竦め、自分の部屋へと向かった。
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