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四部 シニア・ハイ-14

 フランツとは一番気が合う。  それは誰もが知っていることだし、たぶんフランツもそう思ってる。  なぜか、と考えてみる。  たいていツラッとしてるから、みんな『クール(カッコイイ)』とか言うけど、それは緊張とか動揺とか恥ずかしいとか、そういうのをむっつりして誤魔化してるだけで、実はかなり繊細なタイプだって、僕らは分かってる。  つまり用心深いんだ。そういうトコ似たようなもんだから分かる。  (はた)で見てたら『機嫌悪いな』とか『疲れてるな』とか、なんとなく分かるし、仲間といる時は、けっこう大口開けて笑うしね。実はぜんぜんクールじゃないただのオタクだ。  モテ始めた頃、調子に乗って痛い目見たあたりから、表情を惜しむようになって、みんながクールな優等生だって思うようになっただけ。フランツ自身、そういうの自覚して利用してるんだろうな。  もともと頭回るやつだし、色んな人と関わるようになって色々見えてきて、女の子や大人ってモノが信用しがたいって考えるようになったって言ってた。  そういうのすごく分かるから、話が深くなったことが何回かあって、お互い言いたい放題言ってるうちに一番なんでも話せるようになったんだ。  ケニーも似たような経験してるはずだけどフットボール至上主義で努力大好きだから、やっぱりちょっと違う。なんだかんだお人好しのデニスやキースには、そこらへん分からないだろうし。 (そうか)  僕は納得した。似てるからぶっちゃけられて、だから一緒にいても楽。そういうこと。  なんとなく、そんなことを考えているのは、頭の中がヒマになったからだ。  つまりケイトがまた演説を始めて止まらないという、なかなか疲れる状況になってるんだよね。  九月から淳哉は十一年生、ケイトは十二年生に進級した。そのお祝いと称して、今日はレンタカーを借りて、ベドフォードまでやって来た。  外観が英国のマナーハウスみたいな、ちょっとクラシックなホテル。ケイトみたいな娘は、エッチするのに雰囲気作った方がイイだろうと思って、この週末予約を入れた。つまり今日はお泊まりで、ケイトを落とす為にシチュエーションを作ったってわけ。  事実、到着した時は、さすがのケイトもテンション上がってた。これはイケるとか思いながら、部屋に荷物を置いて、まず散歩に誘い、館内を探検してから外に出た。ここの庭園がきれいだってことはリサーチ済み。水鳥が遊ぶ池のほとり、花壇に囲まれた雰囲気良い四阿(あずまや)で、肩を抱き寄せてキスしたらこれだ。本当ならこのまま雰囲気作って、ディナー前に一発、とか思ってたんだけど、それは無理そうだ。  いつもは仲間と遊ぶ週末だけど、ケイトと過ごすことに決めたのは、フランツが『そろそろヤっちまえ』と言ったからだ。 『え、まだ一ヶ月経ってないけどいいの?』 『最近おまえうざいからいい。さっさとヤっちまって、すっきりしろよ』  ここんトコ、フランツからかうのが面白くて、ついついベタベタしちゃってた。だっていやーな顔するけど、避けようとも逃げようともしないし、二人でくっついてると、ある種の女の子が騒ぐし、面白かったんだ。時々フランツもノって、女の子の前で熱烈ハグしたりしたから、面白がってると思ったんだけどな。  でも正直、面倒な気分が大きくなってたし飽きてきてたし、ラッキーと思ってすぐホテルを予約した。  セックスの前は目一杯優しく、気分良くさせようっていうのが、僕のやり方。お互い愉しい時間を過ごせば、後腐れも無くなるというものだから、雰囲気作ったり花やプレゼント贈ったり、そういうのもけっこうやる。  まあ、いつもは年上の女性と楽しんでいるから、ティーンエイジャー向けなノウハウじゃないかもだけど、ケイトならトラディッショナルなホテルとか好きそうだと思ったし、実際ケイトは頬をバラ色にして喜んだ。  ていうか、いつも即断即決なのに三週間も引っ張ったんだ。滅多にやらないことやったんだから、こっちも愉しまないと割に合わない。  そして確かにクレバーなとこは彼女の長所だけど、これはマジ勘弁だよなあ、とひっそりため息を吐く。  ロマンティックな雰囲気に持って行くとケイトは、いきなり得意の論調で激しく語り出す。これは照れてるのか、それともセックスを避けたいのか。  といってもケイト程度の恋愛スキルじゃ僕の敵じゃ無い。  最終的にやる事はやるんだけど、過程はわりとどうでも良いので、面倒な演説が始まった瞬間、一応ニコニコ聞いてるフリしつつ、頭の中がヒマになったので、フランツのことを考えていたわけ。  すっきりしたから、ケイトにニッコリ笑いかけた。 「たくさん話したから、喉渇いたろ。ティーハウス行こうか。ここはスイーツもおいしいんだってさ」  わかりやすく口を閉じて目を輝かせたケイトは、「行きましょう!」と跳ねるように立ちあがった。  ベッドの上では研究者のように、相手が快感を覚えるポイントを探り、狙い通りの反応を得ることでどんどん愉しくなる。淳哉にとってセックスは人を手軽に思い通りに出来る手段だった。  バージンとヤるのは初めてじゃないけれど、ケイトはかなり手間暇かけたわけだし、あっさり終わらせる気にはならず、淳哉は彼女の身体へ執拗に愛撫を重ねながら、甘い言葉を費やした。  彼女の場合、尊重されることで自尊心が満たされ、メンタルが安定するというのが分かっていたからだ。そうして愛撫でもたらされる快感を素直に甘受させる。誰だって快感には弱い。気持ち良ければたいていのことがどうでも良くなるのだ。  案の定、いつも無意味に回るケイトの口もさすがにおとなしかったし、声を出すよう何度もせがんだせいか、やがて掠れたような声を漏らしはじめ、心も体も盛り上げて濡れ濡れにしてから挿入した。  そこまで痛がらなかったし、出血も多くなかった。さすがにバージンで挿入の快感は得られなかったようだけど、想像した通り、いや想像以上に締まりは良かった。小振りの乳房は発達した大胸筋の上でプルンと張り詰め、腹筋も背筋もきれいに引き締まって、感触はかなり好みで楽しめた。  一度射精して身体を離し、抱きしめてキスしたら、ケイトは涙ぐんで少し笑った。そうそう、こういう風に静かにしてれば、可愛いんだよな。おとなしくなるなら、あと何回かセックスしてもイイな。もう少し慣れて挿入でも感じるようになったら、もっと愉しくなりそうだ。  今回は清い交際ってやつを三週間やった。こういうのは初めてだったけど、結果オーライだと淳哉は満足し、おのずと笑みを浮かべながら髪を撫でていたら、ケイトが幸せそうに微笑んだので、チョロいよなあと思ってクスッと笑ってしまった。  ケイトを緩く抱き、啄むようにキスを重ねながら、淳哉は算段を始めていた。 (でもヤる場所考えなきゃだな。学校内だとマズイだろうけど、いちいち遠くのホテルってのも面倒。手頃なアパートでも借りるかな)  学内で相手を見繕うことを『頭が悪い』行為だとしていたが、相手も納得しているなら話は別だ。 「ねえジュン」  甘えたような囁きが耳に入り、淳哉は「ん?」と声の主を笑みで見つめる。ケイトは蕩けそうな夢見る顔で囁いた。 「……愛してるわ」  吹き出しそうになって、なんとか堪えた笑顔で 「そうなんだ」  と言い、鼻の頭にキスをする。間近で見つめる茶色の瞳が煌めいて、「そうよ」笑みの形になった。 「私、幸せ。あなたも幸せにしてあげる。私たちこれから幸せになれるわ」  今度は鼻で笑いそうになったのを堪える。 (一回寝ただけで、なんだそれ)  まったく余計なお世話だった。  しかし将来とか永遠を匂わす女が、今まで居なかったわけじゃない。だから淳哉は「いいね」と笑いかけ、いつものセリフを口にした。 「でも先の話はしないことにしてるんだ。嘘をつくことになるのは嫌だから」  するとケイトは、クスッと笑って、淳哉の頬を手のひらで覆った。 「そう言うと思った」  なぜか余裕の笑顔のケイトに、本能的な忌避感が湧き、少し身を引くと、背に回ったままのケイトの腕がそれを阻害した。 「大丈夫よ。私があなたの家族になってあげる」  ケイトはとても優しい表情でそう言った。背筋がぞっと粟立って、「……家族だって?」復唱した淳哉は半笑いのまま表情が固まる。 「ええそうよ。お母さんがいないことなんて、私が忘れさせてあげる」  茶色の瞳は確信に満ちて輝き、その声は今までのどんな瞬間より自信に溢れていた。  見当違いの思いやりに苦笑するしかない。そもそも滅多に思い出さないことを、忘れさせるってなんだよ、と考え、その意思がちゃんと伝わるよう、大きく溜息をついた。  けれどケイトの表情は変わらない。見ていられず、思わず抱き寄せて頭のてっぺんにキスをしながら眉をしかめた。 (まったく、善良でまっすぐな女の子って、時々怖いよね)  そう考えて笑おうとしたが、あまり余裕は無くなった淳哉に、顔が強張っている自覚はなかった。

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