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四部 シニア・ハイ-6
この学校に来た十二歳の頃から四年間、一度も休むことなく週二回通ってくる家庭教師。
そういえば今日は家庭教師が来る日だった、と思い出す。そんなことはすっかり忘れていた。この日は夕食が終わるまで仲間も部屋には来ない。
とはいえジャスが部屋に入っていることに疑問はない。淳哉は集中すると物音が聞こえなくなるので彼は合い鍵を持っていたし、気づくとジャスが隣に座っている、ということは何度となくあり、それ自体は慣れていた。ジャスは穏やかで淡々としていて、あまり存在を主張しないし感情を見せない。それに勉強中は集中してしまうので、勉強する時しか会わないジャスがどんな顔をしているかも、淳哉は忘れがちだった。
しかしただでさえいろいろ溜まってむしゃくしゃしていた。嫌な無力感にも襲われた。まして自慰を見られたなんて最悪だ。
淳哉を見下ろすジャスの顔に表情はなく、大きく見開いた緑の瞳にも、なんの感情も見えない。ただ、言葉もなく突っ立っている家庭教師に、淳哉はイラッとして、叩き潰したい衝動に襲われた。
(こんなの無かったことにしなくちゃ)
ペニスを露出したまま腹筋で身を起こす。淳哉は攻撃的な気分の命じるまま、ジャスの股間に手を伸ばし、着衣の上からペニスをギュッと握った。イラッとしてからそこまで一瞬だ。
「えっ、なに…っ」
狼狽した声が聞こえたが構わない。やられたら倍返しでやり返す。殴ったくらいじゃこの屈辱は返せない。見られた屈辱は、上回る屈辱で返さなければ。だが。
「はあ? なに勃ってんの」
嘲る声と共に、手を少し動かした。ピクンと腰が揺れ、
「やめろよ……」
弱々しい声が聞こえる。上目遣いに見上げると、見開いたままの暗い緑の瞳に怯えが見えて、少し胸がスッとした。
それに狼狽 えた家庭教師の表情は淳哉の嗜虐心をそそる。むくむくと悪戯心が湧き上がり、淳哉はニッと笑んでファスナーを下ろし、手をズボンの中に滑り込ませた。突っ立っているジャスの身体が大きく揺れ、腰を引こうとしたが、直にギュッとつかむと「くっ」という声と共に動きが止まる。ジャスは赤くなった顔に汗をびっしょりかいていた。
じっと見ながら手を動かすと、ジャスの顔が歪んだ。気分が良くなってさらに激しく手を上下させる。
「…ぅ……」
呻くような音が薄く開いた唇から漏れ、淳哉はますます愉快になった。
(イかせてやる)
ペニスをつかんだまま立ち上がり、ジャスに身体を寄せた。家庭教師は背を逸らせ、逃れようとするが、股間をギュッと握ると動きを止めたので、腕を背に回し、抱き寄せた。
「……やめ……」
密着したジャスから、荒い息に紛れるように微かな抵抗の言葉が聞こえたが、当然気にしない。さらに激しく手を動かし、追い上げていくと、ジャスはギュッと目を閉じて荒く呼吸した。それを間近で見ていたら、ようやく屈辱に熱くなっていた頭の中がクールダウンした。そこまで至って、初めて浮かんだ基本的な疑問。
(なんでこいつ逃げない?)
もし自分なら、ぜったい蹴るか殴るかしている。なのになんで?
真っ赤になったジャスは眉間に縦皺を刻み、けれど逃げずに、苦しげな息を吐くのみだ。まるで『いや』と言いながらヴァギナを濡らす女みたいに、いつも淳哉を指導する立場のジャスが、今は淳哉の手で追い上げられている。
(へえ、意外と良いな)
これは女とのセックス以上に征服欲を満足させる、と淳哉は気づいた。それに男なのに、眉を寄せた表情が妙に色っぽくて、淳哉は剥き出したままの自らのペニスが、緩く芯を持ち勃ちかけたのを自覚した。
衝動的にジャスのそれに擦りつけると、ジャスが驚いたように見る。腰を動かすと裏筋が擦れ、ピリッと来るほど気持ちイイ。そのまま二本纏めて握り、手を動かした。
「ン……」
思わず声を漏らす。
見開いたままの怯えたような緑の瞳を間近で見返し、ニッと笑いかけるとピクッと痙攣した直後、淳哉の手が濡れた。
ジャスはハアハアと荒い呼吸を繰り返し目を伏せた。汗びっしょりで真っ赤だが、逃げずに立っている。淳哉は自分の物と、柔らかくなったジャスのものを握ったまま、鼻と鼻が触れそうな程顔を近づけた。
「イったんだ?」
愉しすぎてクスクス笑いながら低く言うと、ジャスは目に見えて汗を吹き出した。伏せたままの緑の瞳がせわしなく動き、狼狽も露わな様子に、愉しい気分がぐわんと盛り上がる。
「ジャス、気持ち良かったんだ? だから逃げないの? それとも溜まってた?」
問いかけると声も出さずに首を振り、汗が散った。淳哉は耳に
「すごいね。また勃ってきてる」
囁きを吹き込む。女と同じで良いのかな、と考えながらジャスの背に回していた腕で背筋を撫で下ろし、尻の肉をギュッとつかんだ。女とは違う、しっかりした骨格の身体が痙攣様に細動した。
「な、なに」
「ねえ、ジャス見てて僕、ちょっと勃っちゃったよ」
低く言いつつ唇を耳の後ろに押し当て、軽く吸った。肌も女とは違う。少し固くてハリがあって、微かに汗の匂い。甘くはない、スパイシーな匂い。
「もっと気持ち良く、なりたくない?」
そこで囁くと、強い力で肩を掴んだ手がそこを押し、身体が離れた。
「え?」
そのまま両手でドンと突かれ、淳哉は背中からベッドに倒れた。
「…だっ、だ、……っ」
意味不明の声を出し、慌ててペニスをズボンにしまったジャスは、それきり淳哉を見ようともせずに、部屋を飛び出した。
古い寮の廊下は、走り去る足音が良く響く。それを聞きながら、ベッドに横たわったまま呆然としていた淳哉は、とんでもなく可笑しくなってきて、ククッと笑った。
笑いながら自分の始末をし、手も拭いて、ついでに道着を脱いでジーンズに着替える。さっきまでの嫌な気分は消し飛んで、もうそんなことは思い出しもしなかった。
それより、とんでもなく愉しいことを見つけた、ということに意識が向いていた。こんな気分は久しぶりで、これからどうしてやろうかと考えると、愉しくて笑いが止まらない。こんなエキサイティングで面白そうなこと、滅多にない。
気がつけば、すっかり気分が良くなって、淳哉はデスクについて勉強を始めた。
今度はしっかり集中できた。
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