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第29話 番の証
パーティの翌日から、葵は早速、蓮のもとで仕事を教わっている。
ビジネススーツを着て、兄と一緒に本社ビルへと出社するようになって、あっという間に二週間が経った。
クニシロ・ホールディングスは、貿易業界を支配することで成功を遂げてきた。
取引のある国は数十カ国にも渡っているため、新たに学ぶべきことが山のように存在している。世界情勢、各国の言語や国民性、宗教的慣習、国際的商習慣などはすでに座学で学んではいたものの、理論を知っているだけでは実際の仕事には活かせない。それぞれの取引国独特の法律や税の仕組み、または商用語や工業用語についてなど、細かな部分はまだまだ理解していないところも多いことに気づかされる。
もちろん、表立った取引は各国の担当事業部の人間たちが行うものだ。しかし蓮は、『トップに立つ人間は、手がける事業の全てを把握しておく必要がある。いざという時の判断と決定は、全て僕らが行うのだから』と葵に語って聞かせ、何においても手を抜くことを許さなかった。
人や産業は生き物であり、流れるように変化していくものだ。昨日まで潤沢な利益を上げていたものが、ある日突然世界から求められなくなることもある。莫大な金額を掛けて権益を確保しても、それが失敗に終わることがないわけではない。
蓮は、そういった物や人の流れを読むのが上手いのだ。それは、蓮が挙げてきた実績が何よりもそれを明白に物語っている。蓮がCEOに就任して以降、クニシロ・ホールディングスの業績は右肩上がりだ。
膨大な知識を備えつつ、しなやかに時勢を読む。初めて蓮のそばで仕事を見て、葵は兄の有能さに心底尊敬の念を抱くようになっていた。
そして同時に、これまで一人で苦労を背負わせていたことへの申し訳なさを感じずにはいられない。今後、兄の右腕にも、いや、兄に替わってトップに立つためにも、葵はたゆまぬ努力を心に誓った。
しかし葵には、致命的な弱点があった。
文字が読めないのである。
文字を書く方などはからきしだ。
これまで葵は、全て耳から知識を得てきたということもあり、文字を全く判別できない。そのため、書類のほとんどは蓮の部下に音読してもらい、それと同時に文字を覚えていっているという状態である。
蓮は『書類の大半は英語で作成されるから、まずは英語と数字さえ読めるようになれば問題ない』と言ってはいるが、いつまでも部下に書類を音読してもらっていていいわけがない。そういった事情もあり、葵がまだまだ関わることのできない会議の最中などは、別室で英語と日本語を学んでいる。
特に葵にとって、ひらがな・カタカナ・漢字を持つ日本語は、英語よりもさらに難解なものであった。母国語ぐらいは読み書きできねばなるまいと頑張っているが、さすがの葵もこれにはすっかりくたびれてしまい、合間の休憩時間にはぐったりと机に突っ伏してしまうほどだった。
葵に文字を教えているのは、秘書室に所属する新人だ。二十二歳のアルファの男である。
一番最初にあてがわれた仕事がこれでは、この男もさぞかし残念だろうと思いつつ、葵は睨みつけていたパソコン画面から目をそらし、ぎゅっと目頭を押さえた。
「葵さん、ちょっと気分転換しましょう」
「……ああ、はい。そうします」
「僕、何か買ってきましょうか? このビルの一階に、新しいドーナツ屋が入ったんですよ」
「ドーナツか、確かに甘いものが欲しいですね……。お願いします」
「いいですよ。じゃ、コーヒーも買ってきますね」
「ありがとうございます」
そう言って、その新人——名を麻倉 朋 という——はすっと立ち上がった。奥二重の涼やかな目元は優しげで、アルファの男にしては柔和な顔立ちだ。体格はさすがのようにがっしりとしていて凛々しいが、葵は麻倉の雰囲気に、この本社ビル内で見てきたアルファたちとは異なるたおやかさを感じていた。葵にとってはとっつきやすい人物の一人である。
麻倉がいなくなると、葵は立ち上がって窓の方へと歩み寄り、うーんと背伸びをして首を鳴らした。こんな状態ではいつ兄の力になれるのかと焦る気持ちもあるが、今は焦っている時間すらも惜しい。
せっかく結糸との関係については許しが下りたというのに、この二週間まるで結糸と話ができていない。屋敷へ戻る頃にはぐったりと疲れていて、ベッドに入るなり眠ってしまうという有様だ。体力的な部分ではなく、これまでずっと休眠状態だった脳の視覚野がフル活動しているせいだろう。
「……結糸、何してるかな」
大きな一枚ガラスの窓から、眼下に広がる首都の風景を見渡しながら、葵は無意識のうちにそう呟いていた。葵と番うことが決まっている結糸だが、今も国城邸で働き続けている。
そして仕事をしながら、家庭教師に勉強を見てもらっているという日々を送っている状況だ。結糸は結糸で、国城家にふさわしいオメガになれるよう、努力をはじめているところなのだ。ここで葵が弱音を吐くわけにはいかないのである。
この一週間の間、朝起きると、隣で結糸が眠っていることが何度かあった。おそらく葵の着替えや入浴の手伝いをしようと部屋へ来たはいいが、葵はすでに眠っているし、加えて結糸もぐったりと疲れている。そのため、二人で朝まで眠ってしまうのだ。
その時見た結糸の寝顔を思い出すと、葵の心は軽くなる。愛らしい寝顔を思い出すと、すぐにでも結糸を抱きしめたくなった。そのためには、まずは今日のノルマを達成しなくては……と、葵はもう一度伸びをして、大きく深呼吸をした。
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「なんだこりゃ」
屋敷に戻り、あくびを嚙み殺しなが自室のドアを開けた葵は、思わず素っ頓狂な声をあげた。
部屋が、ものすごく散らかっている。床の上に、葵の衣服や下着の類が散乱しているのである。空き巣でも入ったのかと思いながら部屋の中へ進み入ってみると、ベッドの上にはさらに大量の衣服が集められていることに気づく。ワイシャツやセーター、アンダーシャツ、スポーツウェア、下着、バスローブ……こんもりと集められた葵の服の中で、結糸がすうすうと寝息を立てているのを見つけた葵は、ちょっと目を瞬いた。
「結糸?」
「……ん……」
「寝てるの?」
ベッドに腰掛け、眠る結糸の頭をそっと撫でてみる。結糸は小さく呻いて身じろぎをし、大あくびをしながらうっすらと目を開いた。寝ぼけ眼の無防備な表情を見せる結糸が愛らしく、葵は身を屈めてちゅっと結糸の額にキスをした。
そして同時に、感じ取る。
あの、甘い香りを。
「結糸……、発情期が近いんだな」
「……へ……? んっ!? な、なんじゃこりゃ!!」
とろんとした表情から一転、結糸がびっくり仰天している。ベッドの上、または床の上に散乱した衣服を見回して、青い顔をしつつ冷や汗をかきはじめている。
「結糸がやったんだろ。無意識だったのか?」
「た、多分……。てか、すみません!! うわああ、このワイシャツすげぇ高いやつ! シワになったら大変、」
「結糸、それはいいから」
大慌てで片付けを始めようとする結糸の手首をそっと掴み、葵はそのまま結糸をベッドに押し倒した。結糸は困惑した表情をしつつも照れくさそうな目つきで葵を見上げている。
「オメガが巣作りをするって、本当だったんだな」
「巣作り?」
「幼い頃、家庭教師に習ったことがあるよ。発情期が近いオメガは、愛しいアルファの匂いが染み込んだ衣服をかき集めて、巣を作るんだって」
「へ? 発情期が、近いんですか? 俺……」
「これまでは、薬を飲んでいたから分からなかったんだろうな。もしくは、ちゃんと俺のことを愛しいと思ってくれるようになったってことなのかな?」
「ぁっ……」
葵は結糸の指に指を絡めながら、もう一度柔らかく唇を塞いだ。結糸の唇の弾力を味わいながら、何度もキスを交わしていると、結糸の全身から放たれる甘い香りが、どんどん、どんどん強くなっていく。
その芳醇な香りは、葵の身体をもじわじわと昂らせ始める。発情期以外の時にも、こうして何度か肉体を探り合うことはあった。その時も当然性的な興奮を感じていたが、これまでの感覚とは全然違う。
身体が熱く、内側から溢れ出してしまいそうなほどの欲求を感じる。葵の全身全霊が、結糸を求める本能の疼きを感じるのだ。
「……嬉しいよ。結糸のヒートをずっと待ってた。これでようやく、俺はお前を番にできる」
「あ……。俺、葵さまの番に……なれるんですか……?」
「そうだよ、俺たちは番になる。……やっとだ」
葵は結糸の襟元を寛げながら、うっとりと結糸を見つめた。葵に組み敷かれ、陶然とした表情で葵を見上げる結糸の表情は、ひどく妖艶なものへと変化していた。
普段は快活で、元気いっぱいで、強気な結糸。それが今は、とろけるように甘い表情で、葵を性的に誘っている。紅潮したすべらかな頬に触れると、熟れた果実のような小さな唇から、甘いため息が小さく漏れる。色香の漂う結糸の魅力に、葵はほのかな目眩すら感じていた。
細い鎖に通して、肌身離さず持っていた鍵を取る。それは、結糸の首に巻かれた首飾りの鍵だ。かちり、と小さな音を響かせて外れた首輪の下に、とくとくと脈打つ白い首筋が晒された。
そこは、番の誓いを刻む場所。
しなやかに伸びるか細い首筋は、生唾を飲むほどに美しい。葵はしゅるりとネクタイを外して、ジャケットを脱ぎ捨てた。
「……はぁ……すごいな。何もしてないのに、もう理性が飛びそうだ」
「葵さま……やばいです、俺……おれっ……」
「これからはもう、何も怖がることはないよ。俺がずっとそばにいるから」
「はぁっ……はぁっ……」
本格的に、ヒートが始まったらしい。
結糸は涙で潤んだ瞳で葵を見つめ、葵を求めて両腕を差し伸べる。
葵は結糸をしっかりと抱きしめながら、甘い芳香を漂わせる白い首筋にキスをした。ちょっと唇を這わせるだけで、結糸は「ぁ、ァっ……!」とか細い喘ぎ声を漏らし、仕事着のスラックスに包まれた脚を葵の腰に絡み付けた。
身体がそうして密着すると、結糸の屹立はすでに硬く硬く熱を滾らせていることに気づく。葵が少し腰を摺り寄せるだけで、結糸はあられもなく腰を振り、乱れてくれる。
キスをするだけで、結糸はぽろぽろと涙を流した。じわじわと高まってゆく発情の熱に浮かされてゆくにつれ、結糸の表情はうっとりするほどに妖艶なものへと変わっていく。
最初に交わった時も、結糸はこんな顔をしていたのだろうか。
互いの気持ちを明かす前に、本能的に繋がり合ってしまったあの日、結糸はどんな表情で自分を受け入れていたのだろう……。結糸の唇を塞ぎ、深く舌を絡めながら、葵は敏感に快楽を拾う結糸の肉体に手のひらを滑らせる。
結糸の匂いも、唾液も、何もかもが葵にとっては甘露のよう。ゆっくりと理性を侵され、葵の手つきも次第に乱暴になって行く。シャツを脱がせることももどかしく、葵は結糸のシャツを荒々しくはだけさせた。薄桃色に染まり、ツンと尖った小さな胸の尖に舌を這わせると、結糸はびくんと背中を仰け反らせながら、自分でスラックスのベルトを外そうと震える手を伸ばしはじめた。
「……自分で脱いでくれるんだ」
「だって……っ、はやく、したい……」
「へぇ……積極的だな、結糸」
「あおいさま……、はやく……おれっ……ずっと、がまんしてたんですよ……っ……」
「俺と、こうすることを?」
「ほしいです……はやく、おれに、ください……!」
結糸は自らスラックスの前を寛げながら微かに腰をゆらめかせ、陶然とした目つきで葵を誘う。
頬を紅潮させ、赤く艶めいた唇からはしどけない吐息を漏らしながら、葵を誘うフェロモンを放っている。これまでに見たことがないほどに淫らな結糸の表情に、葵は思わず生唾を飲んだ。
結糸のスラックスを下着ごと引き抜くと、ほっそりとした性器が露わになる。それはすでに体液に濡れ、結糸の興奮を如実に示すようにそそり立っていた。葵はその先端に舌を這わせて体液を舐めとり、同時に結糸の後孔を指で淡く撫でた。それだけで結糸は腰を跳ね上げ、「ん、んぁっ……!」と甘い悲鳴を上げながら身悶えている。
そこは溢れんばかりの分泌液に濡れ、葵の指をあっさりと咥え込む。
小さな小さな窄まりだというのに、そこはやわらかく解けてひくひくと物欲しそうにうごめいている。葵が指を蠢かせるたび、結糸は「あ! ア、ァん!」と可愛くよがり、自ら脚を開いて腰を突き出す。身体はそうして貪欲に葵を欲しがるくせに、結糸は声を上げるたび、恥ずかしそうに口を押さえてぎゅっと硬く目を瞑った。
初めて目の当たりにする、あまりにも淫靡な光景に、今までになく葵の身体も昂ぶっている。早く結糸の中に入りたいと本能は騒ぐが、もっともっと結糸の乱れる姿を見ていたくて、葵はあえて指で結糸をいじめた。
「や! ァっ……!! やだぁっ……!」
「すごく濡れてる……エロいな……」
「あおいさま、いれて……いれてください……なか、ほしい、ほしいから……っ」
「指じゃ、物足りない?」
「そ、っ……そんな意地悪なこと、いわないでくださ……っ……ァっ、あっ……や、いきそ、……ふぁっ……!!」
いよいよ絶頂してしまいそうになっている結糸の中から、葵はぬるんと指を抜いた。そして手早くベルトを抜き、スラックスを下げると、葵は結糸をぐいっと引き起こす。
対面座位の姿勢になるや、結糸はすぐに葵の首に両腕を絡ませ、葵の唇に火照った唇を押し付けてきた。葵は結糸と濃厚な口づけを交わしながら華奢な腰と柔らかな双丘を撫で、ゆっくりとそそり立つ怒張の上へと導いて行く。
「ぁ……あおいさま……」
「ゆっくり、腰を落として……。そう……上手」
「あ! ァぁあ……っ、ンっ……!!」
「結糸……熱い……。はぁっ……はっ……すごい」
「あおいさまぁ……っ……!! なか、はいって……ァぁ、あんンっ……!!」
「イイ……すごく、はぁっ……結糸……」
結糸は葵の屹立を全て受け入れた瞬間、とうとう達してしまったらしい。熱くとろけた結糸の内壁は、吸い付くように葵の性器を締めつけた。
葵の射精を促すように蠢き、もっともっとと先をせがむように揺れる腰つき。あまりの快楽に煽られて、葵は結糸の首筋に噛み付くようなキスを浴びせながら、下から激しく突き上げた。揺さぶられる結糸の身体をしっかりと抱きしめながら、何度も何度も。
「ぁ! ぁあっん!! あおいさまぁ……っ、はげし……っ、ぅアっ……あァ!」
「結糸……、はぁっ……気持ちいいよ……結糸の、中……」
「あ、あ、あっ、あんっ、ぁ、あっ」
「俺の番……俺の、結糸……っ……」
「や、イくっ!! イっちゃう、あおいさまぁっ……ぁあ、や、ふかいの、ぁんんん……っ……!!」
「っ……!!」
葵の背中に爪を立て、結糸はまた激しく達した。全身で葵にしがみつきながら、ぶるぶると震える結糸の肌は、しっとりと汗ばんでいて火照っている。そしてまた、葵も同時に吐精していた。艶めいた瑞々しい肢体をきつくかき抱き、さっき噛み痕をつけた首筋に顔を埋める。
しかし、葵の中の熱は一向に引いていかない。ややぐったりとしている結糸の耳にキスをして、葵は掠れた声でこう囁いた。
「……愛してる」
葵は結糸を間近に見つめながら、小さな声で囁いた。
「愛してるよ、結糸」
「……はっ……ァっ……あおいさまぁ……っ。おれも、おれも……愛してます……だから……っ」
「……だから?」
「はやく、噛んで……っ……おれを、はやく、あなたのものにしてください……っ……!」
「結糸……」
すう……と、結糸の瞳から涙が溢れた。葵はもう一度結糸の唇にキスをしたあと、ぐっと身を乗り出して、結糸の首筋に唇を寄せた。
「ぁあ……っ……」
結糸の白い肌に歯を立てると、鋭い犬歯がつぷりと結糸の皮膚を突き破る感覚があった。そこから滲み出す結糸の血液の味が、葵の舌の上にじわりと広がっていく。結糸は全身で葵にしがみつきながら「はぁっ……あおいさま……あおいさま……」とうわごとのように葵の名を繰り返した。
結糸に痛みはないのだろうかと、かすかに残った理性が結糸の身を案じている。しかしそれを上回る感情が、葵の全身を支配し、アルファの本能にさらなる火をつけた。
愛する番を得たという安堵感と、身を震わせるほどの歓喜。そしてむせ返るような愛おしさ……。葵はこれまでに体験したことのないような激しい感情に身を任せ、歯を立てたまま結糸を強く掻き抱いた。
やがて葵は結糸の首筋から口を離した。白い肌にくっきりと残るのは、うっすらと血の滲んだ噛み痕だ。葵はくったりと弛緩している結糸の頭を撫でながら、傷口を労わるように滲んだ血を舐め取る。すると結糸はビクッと身体を震わせて、濡れた瞳で葵を見上げた。
「葵さま……これで俺たち、番なの?」
「ああ、そうだよ。ごめん、痛かったよな」
「ううん、いたくない……。なんだろ、噛まれたとこ、すごく熱くて……なんか、葵さまの気持ちが流れ込んでくるような感じがして……すごく、嬉しくて」
「結糸……」
「葵さま……好き、好きです、大好きです……俺、おれっ……」
後から後から、結糸の双眸から涙が溢れる。葵もまた、結糸の感情が手に取るように分かるようだった。結糸の涙を唇で受け止めながら、葵もまた、泣き笑いの表情を浮かべていた。言葉にならないあたたかな感情が胸を満たし、ただただ結糸を抱きしめることしかできなかった。
「結糸……。俺の、結糸」
深く深く唇を重ね合いながら、葵は結糸の身体を暴いていく。結糸もまた全身で葵の愛撫を受け止めながら、幾度となく愛の言葉を口にした。
間近で視線を交わしながら抱き合っていると、ことさらに結糸への愛情を強く感じた。とろんと無防備に緩んだ結糸の表情は、いつにも増して幼気いたいけで、なんとしてでも守りたいという気持ちを掻き立てられる。葵は幾度となく結糸の唇に優しいキスを与えながら、汗ばむ背中を柔らかく撫でた。
「俺も……愛してます……大好きです、葵さま……」
「もっと抱きたい。……全然、おさまらないよ」
「ま、まってください……イったばっかで……っん、」
ほんの少しだけ、葵は腰を動かした。まだまだ硬さを保ったままの葵のそれを感じてか、結糸の表情が再びほんのりとした色香を放つ。ちゅ、ちゅっとリップ音をたてながら結糸の首筋や耳にキスを降らせつつ、葵はそっと結糸の桃色の尖に指を這わせてみた。すると結糸は「ひぇっ」と変な声を漏らしながらも、頬を火照らせ、うっとりと葵を見つめた。
「気持ちいい?」
「う……うん……気持ちいい」
「俺、もっと見たいな。結糸が俺のこれで乱れてるところ」
「ううっ……そんな可愛い顔で迫らないでくださいよ……ちょっ、あ」
葵は結糸をベッドに横たえ、しなやかな脚を開かせる。恥じらいつつも、期待をにじませる表情で葵を見上げる結糸の眼差しが、葵の欲望に火をつける。
妖艶に乱れる結糸の姿から、ひとときも目が離せなかった。見つめ合いながら深く深く絡み合い、何度も何度も結糸に注いだ。抱けば抱くほどに結糸の身体は葵に馴染み、片時も離れていたくないと思わされるほどに、素晴らしい快楽を与えてくれて——……
目を閉じていようとも、今の葵にははっきりと見て取れる。
ふたりを結ぶ、絆の糸が。
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