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14、素直になって
出会ってからこっち、虎太郎はいつでも強気だった。年齢以上にどっしりとした態度で須能を包み込み、まっすぐな気持ちを隠さずにぶつけてくれた。
そんな虎太郎が、今は須能の手の中で震えている。虎太郎の初々しい態度が、いじらしくてたまらなかった。
「ぁっ……はぁっ……はっ……ッ……」
「すごいな……大きいね」
「んっ、ん……ん」
須能は虎太郎の上に跨って、そそり立つ虎太郎のペニスを手で扱いている。スラックスと下着をずらし、汚れてはいけないからとシャツの前をはだけさせた。
六つに割れた腹筋や、たくましく盛り上がった胸筋は見事なものだ。そして立派な体格に相応しく、その屹立はかなりの大きさである。
男としての完成形に近い肉体を持ちながら、こうしてひとに触れられることにはまったくの不慣れ。そういうアンバンランスさが、須能の性癖を妙にくすぐるのだ。
しどけない格好で座椅子にもたれ、須能の好きにされている虎太郎の姿は、途方もなく淫らである。須能は時折身体を伸ばして唇にキスをしながら、下では休みなく虎太郎の屹立を愛撫しつづけた。熱く脈打つそれは、とろとろと溢れる体液に濡れ、須能が手を上下させるたびにちゅくちゅくと淫らな水音が生まれた。
いつしか須能の着物の裾も大きく割れ、白い太ももが露わになっている。虎太郎は左手を持ち上げて須能の太ももに触れると、ひりついた表情でじっと須能を見上げた。
「イキそ……はぁ……っ……」
「ええよ、出しても」
「エロすぎ……だろ……っ……ンっ……」
虎太郎は眉根をきつく寄せ、ぐっと須能の太ももを掴んだ。熱く火照った虎太郎の手の感触が、須能の性をぞくりと震わせる。自然と須能の手の動きも速くなり、虎太郎は「っ……ンっ……!」と呻きながら、須能の手の中に白濁をぶちまけた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「いっぱい出たなぁ。……ほら、こんなに」
「っ……」
ねっとりと濡れた手を持ち上げてみると、虎太郎の体液がつうっと白い腕を伝っていく。あやうく和服の袖に付着しそうになったところで、須能は小さく舌を出し、虎太郎の体液を唇で受けた。
その味は、オメガとしての本能を激しく揺さぶるほどの美味。須能は無意識のうちに舌を伸ばして、己の白い腕を伝う虎太郎のそれを舐め取った。
射精直後で陶然とした表情をしていた虎太郎だが、須能のそんな姿を見つめるうち、あっという間に屹立に力が戻る。再び下腹につくほどに反り返るそれを見つけて、須能は小さく舌なめずりをした。
「正巳……マジで、エロすぎ」
虎太郎の手が伸びてきて、須能の肩から羽織を滑らせる。しゅるりという衣擦れの音、虎太郎の熱い眼差し、震えるほどにそそられるアルファフェロモンの香り……。
――やばいな……僕までそういう気分になってもうてる。これ以上は、もう……。
須能はゆるゆると首を振り、虎太郎の上からゆっくりと退いた。
「……これ以上したら……あかん……な」
「何でだよ。ここまでしといて」
「だって、虎太郎はまだ……」
「未成年だから、とでも言うつもりか?」
ぐっと腕を掴まれたかと思うと、須能はあっという間に虎太郎の腕で横抱きにされていた。包帯に包まれた右手を器用に須能の膝の下に差し込んで、ひょいと持ち上げたのである。
「わっ……何してんねん!」
「俺はもう、我慢できねーよ。正巳のあんなエロいとこ見せられて、はいここでおしまいとか……無理」
「でもっ……」
虎太郎は部屋を横切り、板の間に置かれたベッドの上に須能をそっと横たえた。すぐに起き上がろうとする須能を牽制するかのように四つ這いになって須能に迫り、食らいつくようなキスを浴びせる。
ついさっきキスを覚えたばかりとは思えないほど、虎太郎の動きは巧みだった。濃厚な口付けにとろけさせられているうち、はしたなく乱れた着物の裾の中に、虎太郎の手が忍んでくる。内腿を這う虎太郎の手の感触に、ぞくぞくと全身が騒ぎ出す。
「ぁ、ふっ……ンっ……ん……」
「したい……俺」
「でもっ……僕は、」
「正巳だって……こんなに、俺を欲しがってる」
「んっ……!」
「すげぇ、甘い匂い……はぁ……まじで、理性ぶっとびそうだ」
いつしかむき出しにされていた須能の脚を、虎太郎はぐっと押し開いた。身悶えているうちに帯が緩み、きっちり着つけていた着物の合わせ目が少しずつ広がっていく。
徐々に露わになっていく須能の肌を追い求めるように、虎太郎はその首筋に唇を押し付けた。黒い首輪の嵌った首筋を何度も何度もきつく吸い、白い肌に赤い所有痕を刻んでゆく。
ちり、ちりとした痛みが走るたび、須能は「ぁ、あっ!」とあられもなく声を漏らした。その声に煽られるように、虎太郎のキスが激しさを増していく。
「……こたろっ……ァっ……ぁ、っ……」
「すげぇ……きれいだ。正巳の身体……」
しゅるりと帯を解かれ、着物が全てはだけられてしまった。居間の明かりを受けてうっすらと白く輝く須能の身体を見下ろして、虎太郎はごくりと息を飲んでいる。
虎太郎から与えらえる愛撫によって、須能の股座もまたすっかり嵩を増していた。和装に響かぬようにと、須能はいつも布地の少ない下着を好むのだが、その小さな生地が、今は息苦しげに膨らんでいる。
虎太郎はじわじわと呼吸を荒げつつも口元に小さく笑みを浮かべ、須能の黒い下着をつうと撫で上げた。
「やっ……やめぇって……っ……」
「……エロ。いっつもこんな下着履いてんの?」
「着物に……ひびいたら、不恰好やろ……」
「なるほどな。……でもマジで……めちゃくちゃエロい」
虎太郎の指が、するりと須能の下着を降ろしてしまう。あっという間に露わにされてしまうペニスと秘部が恥ずかしく、須能は必死に膝を閉じようとした。しかし、虎太郎は須能の太ももの間に身体を割り込ませ、須能をあっさりと組み敷いた。
「こらっ……! もうあかんて、言うてんのに……!」
「正巳もガチガチじゃん。それに……こっちも」
「ぁ……っ……!!」
指でなで上げられた場所は、ねっとりと濡れていた。溢れんばかりの甘い蜜が、虎太郎を求めて、とろとろと須能の後孔を潤わせているのだ。須能はかぁぁと顔を赤くして、虎太郎の胸を突っぱねようとした。が、虎太郎がそんなもので動じるはずもなく、ディープキスで逆に黙らされてしまう。
「ぁ、ん……ッ……ぁ、そんな、さわらんといて……っ……!」
「すげぇ……こんなに」
「虎太郎……っ……ぅ、ぁっ……ん!」
「すげ……どんどん溢れてくる。ひくひくして……」
キスをされながら秘部を撫で回され、甘く激しい快感に腰がしなった。
そろそろやめねばと思っていたはずなのに、それじゃ足りない、もっともっと奥へ来て欲しいと、本能が暴れている。そして同時に、虎太郎を求めて激しく燃える自分自身の感情にも、抗いがたい力があった。
しかし須能はぎゅっと虎太郎にしがみつき、身悶えながら首を振る。
「だめ、あかん……あかんよ……っ」
「……本当? やめたい?」
「んッ……あっ、ん、やっ……」
「……俺は、ここでやめたくない。正巳を、俺のものにしたい」
「あッ……!!」
むき出しになっていた胸の尖りに、虎太郎の唇が降りてきた。ずくん、と直接最奥に響くような甘く激しい刺激に、須能は高らかな声をあげた。
「あっ、ァ……ふぅっ……こたろ……ンっ……」
「正巳……かわいい。正巳のこんな顔、絶対誰にも見せたくねぇよ」
「もぉ……あかん……ァ、あん、んッ……!」
「好きだ。……好きだよ」
浅い部分でうごめいていた虎太郎の指が、更に奥へと進んできた。絶頂が近づく予感に、理性がじわじわと侵されてゆくのが分かる。この若く美しいアルファを我が物にしたいという欲望が、須能を支配してゆく。
――もう……欲しくて、欲しくて、耐えられへん……。
「虎太郎……、ごめんな……」
「……え?」
「僕……したい。欲しいねん、虎太郎の……」
「正巳……」
須能はとろとろに蕩 けた表情で、自ら膝頭に手を添えて脚を開き、切なげな眼差しで虎太郎を見上げた。ごくり、と虎太郎が固唾を呑む音が聞こえてくる。
「……いいのか?」
「うん……もう、僕も我慢できひん。ごめんな、こんな大人で、ごめん……」
「……何言ってんだよ」
須能の言葉に、虎太郎はふっと微笑んだ。そして、いつの間にか解けてしまっていた須能の長い髪を左手で梳き、もう一度優しくキスを落とす。
「俺たちは番になるんだ。……求めあうのは、自然なことなんじゃねぇの?」
「……ん……」
「正巳……」
名を囁かれながら優しい口付けをされ、須能は自然と口元を綻ばせていた。慈しむような丁寧な扱いも、須能を押しつぶさないようにと、右手をかばいながら肘で身体を支えている虎太郎の優しさも、涙が出るほどに嬉しかった。
「虎太郎……」
「ん……?」
「僕、君のこと……好きや」
「えっ……」
「めっちゃ、好きやで」
自然と口からこぼれおちるのは、ただただ純粋な愛の言葉だった。
虎太郎はしばらく無言のまま、じっと須能を見つめていた。虎太郎の潤んだ瞳はどこまでも澄んでいて、きらきらときらめいている。須能は虎太郎としっかり目線を交わしながら、柔らかく微笑んだ。
「……はぁ…………もう、マジで、すげぇかわいい」
「……ふふ、この歳になって、かわいいかわいい褒めてもらえる日ぃが来るとはな……」
「この歳って、まだ二十三じゃん」
「そやけど……恥ずかしいわ」
虎太郎は不意に身体を起こし、羽織ったままだった制服のシャツを脱ぎ捨てた。薄暗がりの中、剥き出しになった虎太郎の肢体はしなやかで、たくましく、そしてとても瑞々しい。
この肉体に支配される瞬間が近いのかと思うと、胸が高鳴って仕方がない。須能は小さく息を飲み、うっとりと虎太郎の身体に見ほれていた。
「……しても、いい?」
「うん……きて。……早 う、抱いて」
須能が伸ばした手を、虎太郎はしっかりと握り返す。
ベットが微かに軋む音を聞きながら、須能はそっと目を閉じた。
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