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15、重なる吐息

   虎太郎を受け入れている場所が、熱い。  硬くそそり立つ逞しいそれを根元まで受け入れて、須能ははぁ、はぁと浅い呼吸を繰り返していた。  虎太郎は、ゆっくり、ゆっくりと須能の身体を開いていった。押し寄せる快楽を必死で堪えるように唇を噛み、眉根を寄せて須能を見つめる虎太郎の眼差しに、鼓動は高まる一方である。  余すところなく中を満たす虎太郎の怒張はあまりに大きく、初めての身体にとってはかなり苦しい。しかし虎太郎の動きはどこまでも丁寧で優しく、おかげで痛みを感じることはひとつもなかった。 「……はっ……ぁ……すげぇ……きつ……ッ」 「ん、ん……ぅ」 「ごめん。苦しい……よな……」 「ううん……だいぶ、慣れて……っ、ぁ」  微かに虎太郎が腰を揺らすだけで、否応なく、中のいいところを刺激される。しっくりと馴染み始めた身体は徐々に快楽を拾い始め、須能はぎゅっと目を閉じて、迫り来る未知の感覚に身体を震わせた。 「ぁ……んっ……!」 「どうしたんだ? ……なんか、すげ、締まる……」 「う、動いたら……っ……ァっ……あ、」 「ごめ……気持ちよすぎて、勝手に腰、動いて」 「ぁ、っ……こたろ……っ……そこ、あかん、ァっ……!!」  ず……と虎太郎が腰を引こうとすると、熱くとろけた須能のそこは、虎太郎を離すまいときゅうきゅうと締めつける。その締め付けに虎太郎は小さく呻き、身を乗り出して須能の手をぎゅっと握りしめた。  シーツを握りしめて震えていた指に虎太郎の大きな手が重なり、須能はまつ毛を震わせながら目を開いた。そして、男の色香を滲ませる虎太郎の表情を、じっと見つめる。  ——あぁ……めっちゃ色っぽい顔してはる……。 「もっと……動いていい? 正巳の中……すげ、よくて……っ……」 「ええよ……。虎太郎の、おっきいから……その、ゆっくり、してな……?」 「っ……うん、わかった」  虎太郎はゆっくりと身を起こし、包帯の巻かれた右手を須能の腰に添えた。そして左手は尚も須能と指を絡めたまま、ずん、ずんと力強く抽送しはじめる。  虎太郎の動きは緩やかだが、はち切れんばかりに硬く反り返ったそれに奥の奥まで突き上げられるたび、敏感な場所を容赦無く激しく責め立てられる。揺さぶられながら腰をよじって声を上げ、握りしめた虎太郎の指をぎゅっと強く握り返した。 「あッ……! ん、ンっ……!」 「すげ……イイ……。はぁっ……はッ……正巳、大丈夫か……?」 「ぁ……ぁ、ん、……きもちええよ、こたろ……っ……ァっ」 「ほんと? ははっ……よかった」 「まっ……て、も……イきそう、イきそうやねん……っ……」  須能がそう言って身悶えていると、虎太郎は少しピストンの速度を上げた。虎太郎の腰が尻にぶつかるたびに、ぱん、ぱん、ぱん、と濡れた肌の弾ける音が、寝室に響き渡る。 「あ! ぁっ……ぁ! 虎太郎っ……ぁ、あん、ンっ……!」 「はぁ……っ……すげぇいい……正巳、イくとこ、見せて……」 「っ……イく……っ、いく、ぁ……ん、ん……ッ!!」  最奥から弾けるような快楽の波が、須能の全身を痺れさせた。きつく目を閉じたまぶたの裏で、真っ白な光が溢れかえっている。  初めて感じる激しい絶頂感はあまりに甘美で、須能はしばらくのあいだ、ただただ快楽に打ち震えていることしかできなかった。  絶頂の残滓に揺蕩っている間、虎太郎はじっと動かず、じっと須能の表情を見つめていた。須能がゆっくりと虎太郎を見上げると、虎太郎は苦しげに眉根を寄せ、はぁ……と熱のこもったため息をつく。 「正巳のイキ顔見てたら、こっちまでイキそうになったわ」 「そっ……そんなまじまじ見んといてくれへん? ……恥ずかしいやん」 「すげぇエロいのに、めちゃくちゃきれいで……俺……もう……っ」 「ぁ、……あ!」  虎太郎は須能の脚を掴んで膝を閉じさせると、そのまま須能の脚ごと抱きこむようにして、激しいピストンを始めた。一度絶頂してさらに感じが良くなってしまっている内壁を容赦なく擦り上げられ、あまりの快楽に甘い悲鳴が漏れてしまう。 「あ! ぁ、あん、あっ……ァ、あっ!」 「正巳……。……はやく……正巳を番にしてーな……」 「ぁうっ……! こたろっ……やぁっ……ふかい……ぁ、あんッ……!!」 「ここ……噛んでさ、早く、俺だけものに……」 「んぁっ……!!」  がり、とネックガードの上から首筋に歯を立てられた。虎太郎の灼けつくような独占欲を感じて、須能の胸は激しく高鳴る。  すっかり虎太郎に馴染んだ須能の身体は、痛みさえも快楽と捉えてしまうらしい。二度、三度と甘噛みをされるうち、須能は再び激しく絶頂していた。 「ぁ……ぁぁ……ッ……!!」 「止まんねぇ……正巳、めちゃくちゃ、俺のこと締め付けて……」 「だって……、きもちええ……こたろう……っ……もっと、もっとして……」 「ほんと? 気持ちいい?」 「うん……、めっちゃ、きもちええよ……? はぁ、あっ……ぁあ!」  涙目になりながら、熱く掠れた声でそう訴えると、虎太郎の動きがさらに激しくなった。結合部からは濡れた音が淫らに響き、いつしか須能は自ら脚を大きく開いて、はしたなく腰を振っていた。  須能の締まった腰を大きな手で掴み、虎太郎は猛々しい動きで須能を穿った。逞しい肉体にはしっとりと汗が浮かび、頬を上気させながら須能を見つめる目つきには、余裕や理性がすべて消え失せている。  愛おしい相手にここまで深く求められる幸せに胸が詰まって、須能の目からは涙が伝った。 「ぁ! こたろ……っ……、また、イく……っ……とまらへん……ァ、ああ、あっ……!!」 「俺も、もう……はぁっ……正巳……っ……イキそ」 「出して、中で……! 出して……!」  須能は手をいっぱいに伸ばして虎太郎を引き寄せ、キスをせがんだ。  荒い呼吸を重ね、舌を絡め合ううちに、虎太郎は須能の中で果てたようだ。須能をしっかりと抱きしめながら、「イくっ……! ンっ……ん、んっ……!」と切なげな声を漏らし、ぶる、ぶるっと全身を震わせて、須能の中に体液を迸らせる。  ——熱い……。これが、虎太郎の……。  ヒートではないのだから、懐胎するはずもないというのに、胎内に放たれた子種を感じて、須能のオメガの本能が激しく疼いた。  これまではただただ、義務感によって子を成さねばと思っていた。だが今は純粋に、虎太郎の子どもを産みたいと思っていることに気づく。そんな自分の変化に驚きつつも、須能はそれを自然と受け入れていた。 「はぁ……っ……はぁ……虎太郎……」 「ん……? ごめん……本当に中で」 「いいねん。……僕がそうしてって、頼んだんやし」 「……そうかもしれねーけど……」 「ん……」  ずる……と、これまで中を満たしていたものを抜き去られる感触で、妙な声が漏れてしまう。虎太郎はそのまま須能の隣に横たわりながら、ふと、包帯のほどけかけた手を持ち上げる。 「やべ、血が滲んでる」 「えっ!? あ……ほんまや、どないしよ。あ、ガーゼはあったはずやし、すぐに、」 「いいってこれくらい。それより……もっとこっち来いよ」 「わっ」  起き上がりかけたところを虎太郎に抱き寄せられ、逞しい胸の上に倒れこむ。虎太郎の鼓動はとても速く、汗に濡れた肌はしっとりと柔らかい。  須能は虎太郎に腕枕をされながら、しばらくその鼓動に耳をそばだてていた。どくん、どくん……と力強く命を刻む虎太郎の拍動を聴いていると、不思議と穏やかな気持ちになった。 「……虎太郎」 「ん……?」 「大学、合格したら……僕の家においで」 「えっ。……えっ!? いいの!?」 「うん」  須能はゆっくりと身体を起こしてうつ伏せになると、虎太郎の肩口に軽くキスをした。うるさく乱れた長い髪をすっとかき上げ、目をキラキラさせている虎太郎に微笑みかける。 「先代から受け継いだ家なんやけど、無駄に広くてな。平家やけど、一軒家に住んでんねん。だから、部屋はなんぼでもあるし」 「……うわ、ほんとにいいのか? すげー嬉しい」 「大学からの距離とか、ちょっとよう分からへんねやけど。お父様のお許しが出たら、一緒に住もっか」  照れながらそんなことを言う須能を、虎太郎はぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめた。大きな身体に抱きすくめられ、愛おしげに頬ずりをされながら、須能は虎太郎の腕の中でくすくすと笑う。 「俺、絶対受かるから。……明日から勉強すげーがんばろ」 「ふふ、がんばりや。向こうで待ってるから」 「向こうで、か。……こっちには、あと何日いるんだっけ」 「あと五日。でも、最終日の公演のための稽古が入ってるから、明日からは忙しいねん」 「そっか……そうだよな。……あ、そうだ」 「ん?」  虎太郎は須能の髪の毛に手を伸ばし、そのひとふさをすくい上げる。そして、情事の汗を含んでしっとりとした黒髪に唇を寄せながら、こう言った。 「ヒートの時にここを噛めば、番が成立するんだよな」 「えっ……? う、うん、そうやで」 「次のヒートって、いつ頃なんだ?」 「えーと……たぶん、来月末、とかやろか」 「その時は連絡しろよな。すぐに行くから」 「えぇ? すぐ行くって君、学校もあるやろ。勉強だって」 「一週間くらい休んでも、すぐに取り戻せる。それにうちの学校、番がヒートの時は休める制度があるんだ」 「そうなんや。さすが名門校……」 「俺がいるのに、オメガ仲間とエッチするとかありえねーからな! それに……」  一旦言葉を切り、虎太郎はひたと須能を見つめた。虎太郎に触れられた髪の毛が、なぜだかじわりと熱く感じる。 「できるだけ早く、正巳を番にしたいんだ」 「……うん」 「けど俺はまだガキだし、しばらくは距離もある。守る守るって大口叩いてるけど、実質すぐに正巳のそばにいられるわけじゃない」 「……せやなぁ」 「だから……まぁ、なんていうか。俺が不安なだけなんだけどさ。ほっといたら、正巳の周りにはすぐアルファが群がってくるだろうし」 「……うーん……まぁ、そういうこともあるかもやな」 「そうだろ!? だから絶対、行くから! ……わがまま言ってるのは分かってるけど、俺はどうしても、正巳とちゃんと繋がってたいんだよ」 「ふふっ」  切迫した表情でそう語る虎太郎の純粋さに、須能は思わず微笑んでいた。  須能はベッドから身体を起こし、肘のあたりでわだかまっていた和服をしゅるりと脱ぎ捨てた。そして虎太郎の腹の上に馬乗りになり、逞しい胸筋に手を触れながら、虎太郎にそっとキスをする。 「わがままなんてこと、ないよ。……そうしてもらえると、僕も嬉しい」 「……ほんとか?」 「君に噛んでもろたら、こんな首輪外して、堂々と噛み痕晒して歩いたんねん。そうすれば、もうおかしな輩は寄ってこーへんやろ」 「……そ、そーだな」  照れたように目をそらす虎太郎の表情がいじらしく、須能の胸はきゅんと疼いた。また身を乗り出して虎太郎にキスをすると、大きな手がそっと須能の腰を包み込む。 「ん……。あのさ、正巳のキス……マジでエロいから……」 「だって虎太郎の唇、きもちええねんもん」 「んっ……そんなことされたら、俺……またしたくなんだけど」 「ふふ……僕もやで」  須能はちょっと腰を浮かせ、尻の下で再び硬さを取り戻している虎太郎の屹立の上で、前後に腰を揺らめかせた。すると虎太郎は素直に「はぁ……」と色っぽいため息を漏らしつつ、勝気な目つきで須能を見上げた。 「……いいの?」 「ええよ。けど、手ぇ痛いやろ? ……今度は、僕が上になってあげる」 「マジかよ」 「まぁ……うまくできるかは分からへんけど」  そう言いつつ、須能は虎太郎の唇を淡く食んだ。そしてさっきより激しく腰を使い、まだまだ熱く蕩けたままの秘部で、いやらしく虎太郎のペニスを愛撫する。須能の腰つきを見つめながら、虎太郎はため息交じりにこんなことを言った。 「……はぁ……なんだよこれ、最高かよ」 「ふふっ……かわいいなぁ、虎太郎は」 「ガキ扱いすんなって……っ……ン……」  再び硬さをもって勃ち上がる虎太郎のそれの上にゆっくり腰を落としながら、須能は仰いて甘い声を漏らした。  徐々に熱を増す二人の吐息が、しんとした離れの部屋に、ひっそりと響く。

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