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19、溢れる気持ち

   国城邸で夕食を楽しんだ後、須能は虎太郎を関東の稽古場へと連れ帰った。  虎太郎はまだまだ引越しの準備で忙しいのだから、自宅に帰ったほうがいいのでは、と進言はした。が、翌日須能がすぐに京都へ帰ってしまうということもあり、虎太郎は須能と離れることを嫌がったのである。 「そんないうても、もうすぐ僕ら、一緒に暮らすんやで?」 「そうだけど。昨日は実家だったから、全然正巳に触れなかったし」 「触れなかったって……ふふ、なんやそれ」  稽古場の離れに帰ってくると、虎太郎はふう……と、疲れたようなため息をついた。須能はすぐにお茶を淹れることにした。 「サンキュ」 「気ぃつこたんやな。蓮さまたちとあんなに長い時間一緒に過ごすん、初めてやろ?」 「うん……まぁな。でも、たくさん話ができて嬉しかったよ。それに、結糸ともけっこう喋れたし」 「そぉか」 「色々あったんだってな、葵さまとくっつくまで」 「うん……そうみたいやな」 「正巳も、葵さまと色々あったんだろ?」 「せやなぁ…………。えっ?」  突然そんなことを言い出した虎太郎に驚き、須能はそろそろと目線を上げた。すると、虎太郎はどこか憮然としたような、それでいてどこか不安げな表情で、じっと須能を見つめている。 「そうなんだろ」 「……あー……色々って言うても、実際にこれといって何かあったわけちゃうねんけど……」 「今日の正巳の目つき見てたら、分かるよ」 「えっ? 僕の目つき……?」 「葵さまのこと、好きだったんだな」 「……う」  葵への慕情は全て昇華しているし、虎太郎には気づかれないようにと気をつけていたつもりだった。だが、虎太郎は須能が思っている以上に、須能のことをよく見ているらしい。何だか申し訳ない気持ちになり、須能はそっと目を伏せた。 「ごめんな。別に、言うておくべきことでもないかなと思って、黙っててんけど……僕、ちょっと前まで葵くんのパートナー候補やってん」 「パートナー候補……? 番じゃなくて?」 「うん、蓮さまに頼まれてな。あの人も今は随分丸くならはったけど、昔は『国城家のアルファは番など作るべきじゃない。たくさんのオメガを抱いてたくさんの子を作れ』……みたいな思想を持ったはって」 「……そうなんだ」 「あの兄弟は早うに両親を失ってしもた上に、葵くんは目ぇが見えへんかったやろ。せやから、蓮さまも色々と必死やったんやと思う」 「……そっか。……いや、なんつーかさ。葵さまが相手じゃ勝ち目ねーなって思ったりして……なんか、急に不安になって」 「そか……そんなふうに思わせてもて、ごめんな。でも僕は、君やから惚れたんや。こんな気持ちになったん、初めてなんやで?」  須能はそっと立ち上がり、虎太郎の隣に腰を下ろした。そしてぎゅっと虎太郎の手を握りしめ、ひたとその目を見つめてみる。 「葵くんに憧れていた時期は、確かにあった。でも、葵くんは結糸くんを選んだ。ただ、それだけのことや」 「それだけのことって……そんなんでいいのかよ」 「それでいい。こういうことって、誰も彼もがうまくいくもんと違うねん。一方的に気持ちを押し付けていいもんでもない。相手に受け取ってもらえて初めて、恋は実るものやろ?」 「……うん」 「僕は、虎太郎が僕にくれた気持ち、めちゃめちゃ嬉しかったよ? 初めて君を見た時から、素敵な人やなて思ってたからな」 「……え?」 「こんな風に、自分から好いた相手に愛してもらえることなんて、一生ないと思ってた」  どことなく不安げに揺れていた虎太郎の瞳が、ほんのりと明るくなる。須能は身を乗り出して、虎太郎の頬に口付けをした。そして、たくましい身体にそっと身をもたせかけ、虎太郎の鼓動に耳をそばだてる。すぐに身体を抱きとめる虎太郎の腕の暖かさに、須能はそっと目を閉じた。 「でも虎太郎は、本当の僕を見つけてくれた。僕を守ると言うてくれた。……僕がどれだけ嬉しかったか、分かる?」 「……正巳」 「虎太郎と出会えて、僕はほんまに幸せや。虎太郎とおったら、何があっても大丈夫って思えんねん」 「ほ、ほんとか?」 「ふふ、ほんと」  あたたかな腕の中で顔を上げ、上目遣いに虎太郎を見上げた。背中に回された腕に力がこもり、強く強く抱き寄せられる。 「僕を番にしてくれて、ありがとう」 「……な、なんだよいきなり……」 「ふふっ……。そんな不安そうな顔せんといて。僕はもう、身も心も虎太郎のもの。君だけの……」  そっと身を起こし、伸び上がって虎太郎にキスをした。虎太郎の両頬を手のひらで包み込みながら、丁寧に丁寧に、キスをする。  しなだれかかる須能の腰を抱き支えながら、虎太郎はそっと唇を開いた。須能はすぐに虎太郎の中へ舌を挿し入れ、あたたかく濡れた虎太郎の口内を、優しく愛撫する。 「正巳……っ……」 「好きやで……ほんまに、好き……」 「んっ……」  須能は虎太郎を畳の上に押し倒し、さらに深く口付けた。腹の上に馬乗りになり、濃厚なキスを交わすうち、虎太郎の吐息も熱く熱くなり始める。  裾が乱れ、むき出しになってしまった須能の太ももを撫でる虎太郎の手のひらは、しっとりと熱く火照っている。須能は虎太郎の手の甲に掌を重ね、ゆっくりと、柔らかな双丘のほうへと導いた。 「はぁ……正巳……っ」 「僕も昨日、めっちゃ我慢しててん。……ええこと、する?」 「ん……ぁ」  少し腰をずらし、虎太郎の股ぐらの上で腰を揺らめかせると、虎太郎は小さな喘ぎを漏らす。そこはすでに硬く硬く屹立していて、須能が身じろぎをするたびに、虎太郎は快感を求めるように腰を上下させた。 「すごいね……もうこんなに、硬くして」 「そ、んなことされたら……俺だって、我慢できなくなるに決まってんだろ」  虎太郎は荒くなりかけている呼吸のまま、上半身を起こして須能をぎゅっと抱きしめた。そして噛みつくような激しいキスを須能に与えつつ、太ももから尻たぶにかけて、荒っぽい手つきで撫で上げる。  そしてもう一度、虎太郎は首筋の噛み痕の上に歯を立てた。 「ぁ……!!」 「よかった……正巳が、誰かのものになってなくて」 「ンっ……ぁ、あっ……」 「正巳……」  尻にぴったりと食い込む下着の中へ、虎太郎の指が忍び込んでくる。再び与えられる深い口付けに応じながら、須能はびく、びくっと身体を震わせた。  すでにねっとりと濡れたそこを弄ぶ虎太郎の指の感触が、気持ちよくてたまらない。もっと太くて熱いものを受け入れたいとせがむように、須能の後孔はひくひくと物欲しげにひくついている。 「ぁ、あん、ん、んっ……」 「また、こんなエロい下着履いてんのか」 「ひぁっ……」  ぐ……と虎太郎の指が挿入ってきたかと思うと、ぬちぬちと浅い部分で抽送される。須能はちょっと腰を浮かせて虎太郎にしがみつきながら、甘い喘ぎ声をはしたなく漏らした。 「ぁ、あ……ぁん、こたろ……」 「すげぇな……もうぐちょぐちょだ。ほら……俺の指、うまそうにしゃぶってる」 「やぁ……っ……、ぁっ……!」  虎太郎の長い指が、須能の中のいいところを的確に突いてくる。たまらず虎太郎にぴったりとしがみつき、すっかり感じのよくなってしまったペニスを慰めるように腰を擦り寄せていると、虎太郎の低い笑い声が聞こえてきた。 「前も、触ってほしーんだ」 「ん……だって……気持ちええから……っ……」 「どっちが?」 「どっちて……ぁ、ぁっ……そんな、動かさんといて……っ」  笑みを含んだ声でそう尋ねながら、虎太郎は指を増やして須能の中をかき乱す。  そんな浅いところじゃ物足りない。熱く脈打つ、虎太郎の猛りをぶつけてほしい。とろとろとだらしなく涎を垂らす屹立にも触れてほしい……快楽に冒された思考のまま、須能は虎太郎の顔を間近に見つめ、熱い吐息と共にこう訴えた。 「なかに……欲しい……」 「もう? でも、こっちも触って欲しいだろ?」 「え……? ぁっ……!!」  虎太郎は須能を畳の上に押し倒すと、膝を掴んでがばりと脚を開かせた。着物の裾がぱっくりと開き、白い太ももと、艶のある濃いグレーの小さな下着を露わにされ、須能は興奮のあまりぶるりと身震いをした。 「ほら……もうきつきつじゃん。苦しいだろ?」 「ぁ……っ、待っ……!!」 「すげ……正巳の匂い、クラクラするほどエロいな……」  下着の前をずらされてしまえば、硬く芯をもつ花芯が反り返る。そこはすでにとぷとぷと先走りに濡れ、物欲しそうに震えていた。 「そんな……見んといて……」 「うそつけ。明るいとこでガン見されて、興奮してるくせに」 「ぁっ……ぁあっ!」  ちゅぷ……と虎太郎の唇が、須能の鈴口に触れた。上目遣いに須能を見つめながら、虎太郎は赤い舌を覗かせて、先端を濡らす甘い蜜を舐めとっている。 「やっ……あかん、そんなんっ……! ぁ、あぅっ……ンっ……!」 「すげ……溢れてくる」 「こたろ……っ……あかん、も、離し……っ……」 「たまんねーな……この香り」  虎太郎は陶然とした声色でそう呟くと、ぱっくりと須能の屹立を口に含んだ。唾液に舌を絡めて扱かれて、切っ先を吸われ、カリ首を丁寧になぞられる。  あまりの快感に、須能はあられもなく乱れ狂った。下だけを大きくはだけた格好で、白々とした明かりのもと身体を暴かれているという状況にも、激しく性感を揺さぶられる。 「あ……あぁ……も……イキそ……っ……こたろ……っ……」  泣きそうな声でそう訴えてみると、虎太郎はさらにいやらしい水音を立ててそれを深くしゃぶり、須能を煽った。じゅぷ、じゅぷっという淫らな水音と、激しさを増す虎太郎の口淫に耐えきれず、須能はとうとう精を放った。 「ぁあっ……!! ん、んぅ……ンッ……!!」  虎太郎はそれを最後まで飲み干すと、名残惜しげに唇を離した。須能がくったりと脱力していると、虎太郎ははぁ、はぁ……と熱っぽい吐息を漏らしながら、かちゃかちゃとベルトを緩めはじめる。 「はぁ……もう我慢できねー……」 「……僕も……はよう、したい……」 「一緒に暮らしたら……俺、毎日正巳のこと、襲うかも」 「ふぇ……? ふふっ……かまへんよ。僕から襲うことも、あるやろし……」 「へへっ、マジかよ。それ、すげー燃えるんだけど」  虎太郎はひりついた表情に笑みを浮かべ、ちゅっと須能の足首にキスをした。そして、どろどろに濡れた小さな下着を指先でずらし、虎太郎を求めて愛液を滴らせる窄まりを露わにすると、ぐっと切っ先を宛てがった。 「ふふっ……脱がさへんの? いやらしいこと、するやん……」 「好きだろ、こういうの」 「うん……めっちゃ好き。ん、あっ……!」 「はぁっ……熱い。トロトロなのに、すげぇ、締まるな」 「ぁ、ああっ……虎太郎っ……」  ずず、ずず……と押し入ってくる虎太郎の熱に、須能の全てが歓喜している。  虎太郎はゆっくりと、硬くそそり立つ怒張を根元まで埋め、すぐさま速い動きで腰を振り始める。最奥をずん、ずんと突き上げられ、須能は腰をしならせながら甘く啼いた。 「ぁ、あ! ぁん、ぁ、あっ……!」 「正巳の感じてる顔……すげ、かわいい」 「ぁ、あぅっ……! ふかいの、きもちええ……めっちゃ、きもちええよ……っ」 「へへっ……ほんと? でももっと、激しいのがイイ?」 「ぁ! ぁ、あぅ!」  須能に深く嵌めながら、虎太郎は須能のほっそりとしたふくらはぎをゆっくりと舐めた。官能的な眺めに興奮を禁じ得ず、須能はぶるりと震え、きゅうきゅうと虎太郎を締め付ける。 「ん、んっ……もっと、して……はげしいの、してほしい……」 「いいよ。俺も、もっと正巳のこと感じたい。いっぱいイってよ。俺のこれで」 「ぁ、ああっ……!!」  速度を上げて激しく穿たれ、須能は我を失って善がり乱れた。  虎太郎の体温、深い愛撫、熱い体液、色香漂う眼差し——その全てが愛おしく、須能は自分からも腰を使って虎太郎を味わい、身が痺れるほどの快楽に身を蕩けさせた。  汗ばむ肌のぶつかる音と、甘い吐息が満ちる部屋の中で、二人は濃密な時を過ごしたのだった。

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