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『A happy new year』ー御門目線ー
「なんだ、もう帰ってきたのか」
大晦日の夜のこと。
淡々とした声で御門を出迎える蓮の身体を、腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめた。風呂上がりでバスローブ姿の蓮は迷惑そうに身じろぎをして、「寄るな、酒臭い」と御門の胸を押し返す。
「ごめんごめん。親父にしこたま飲まされてさ」
「ったく……。良かったのか? お父上のパーティを抜けて」
「いいんだよ。どうせ、もうみんなべろべろに酔っ払ってたしな」
「そうか。……年が明けてから帰って来ると思ってたから、もう寝ようかと思ってたんだが」
「そんなことするわけないだろ。今年こそ、一緒に年越ししたかったんだ」
今日は、父・御門陽一郎の気まぐれで企画されたパーティに呼ばれていたのだ。
息子である陽仁が成人すると同時に社長職を引き渡し、陽一郎は相談役というポストに収まった。始めのうちは、新社長である息子の指導に全力を注いでいた陽一郎だが、今年は御門の仕事に口を挟む機会も減り、時間を持て余すことが増えてきたらしい。
暇を嫌う陽一郎は、その空いた時間を利用して、若手経営者向けに経営コンサルティングのようなことを始めたのである。それはなかなか評判が良く、若い経営者たちから「先生」と呼ばれて親しまれるようになっていた。
今年の大晦日は、その『教え子』たちを招いてのカウントダウンパーティをやっていた、というわけだ。『教え子』らは御門と歳の近い者が多く、御門自身もたくさんの刺激を受けた。
中にはアルファ女性の経営者も数名いた。アルファ女性たちからの情熱的な一夜の誘いをさらさらと断って、御門は国城邸に帰ってきたというわけだ。
蓮と番って二年目の今年こそは、ふたりで年越しをしたいと心に決めていた。去年の大晦日は、取引先の企画するカウントダウンイベントに参加せねばならず、蓮とともに新年を迎えることができなかったのである。
「そろそろ、お父上も何か感づいてるんじゃないのか?」
と、クリスタル製の水差しの水をふたつのグラスに注ぎながら、蓮がふとそんなことを言った。
「何かって?」
「お前に、相手がいるってことだ」
「相手……あっ、ありがとうございます」
グラスを一つ手渡され、御門はそれを丁重に受け取った。そして蓮と並んでソファに腰掛け、ごくごくと水を飲み干す。蓮が手ずから注いでくれたものだと思うと、いつも飲む水よりもずっと美味い気がした。
「いやまぁ……そろそろバレてはいるかもね。まさかあの国城蓮さまがお相手とは思ってないだろうけど」
「なるほどね」
「俺がいつまでものらりくらりしてるから、見合いの話なんかを出して、揺さぶりをかけるようなことを言って来ることもあるしなぁ」
「……じゃあ、この香水の相手は、お父上が用意したお前の番候補、というところか?」
「香水?」
御門はぎょっとして、くんくんと自分のワイシャツの匂いを嗅いだ。確かに、つんと取り澄ましたような人工的な花の匂いが、ワイシャツや脱いだジャケットの方から香っている。
――あぁ、酔ってふらついた女性に手を貸したっけ。あの時についたのか。
「あ……いや、蓮。そういうパーティじゃないよ? 女性もいたけど相手は全員アルファだったし」
「別に、お前がどこで何をしていようが、僕には関係ないが」
「え? いやいやいや、蓮様、何をおっしゃってるんです」
「うるさい。何で今更敬語なんだ」
蓮はどこまでも淡々とした口調だが、彫りの深い美麗なる目元には、はっきりとした不機嫌さが漂っている。かすかに眉を寄せ、御門から意図的に視線をそらしている蓮の姿に、御門の胸は否応無しにどきどきと高鳴った。
――れ、蓮さまがヤキモチを妬いている……!?
無防備なバスローブ姿で脚を組み、風呂上がりの乱れた髪をかき上げながら無関心を装っている蓮の肩を、御門はぎゅっと掴んだ。
「っ、何だよ。触るな」
「やきもち、妬いてくれてるんだ」
「はっ!? な、なんで僕がやきもちなんか……!!」
「気を揉ませてごめんな。ちょっと、女性にぶつかられただけなんだ。断じて、変な遊びはしてないから」
「……そんなこと、別にどうでも……」
「俺はあなたの番で、誰よりもあなたを愛してる。……蓮が一番よく分かってるくせに」
「う……」
する……とバスローブの割れ目から手を滑り込ませ、白く引き締まった太腿を撫でる。蓮はぴくんと身体を揺らし、きっと鋭い目つきで御門を睨みつけた。が、蓮の頬はすでにうっすらと薄紅色に染まっていて、御門を睨め付ける目つきにもどことなく甘さのようなものが揺蕩っている。
「そうだろ?」
「……んっ……さわるなっ……」
「ごめん。……でも、なんかすげー嬉しい」
「ぁっ……」
太ももに這わせた手のひらを、ゆっくりと上へと這わせていくと、するすると白いバスローブの裾が上がっていく。羞恥に染まる蓮の表情と、あらわになってゆく艶かしい脚にそそられて、御門の身体もじわじわと熱を滾らせ始めた。
「何を喜んでいるのかは知らないが……! 僕は別に、やきもちなんて……!」
「ちょっと不機嫌だっただろ?」
「ふ、不機嫌になんてなってない!」
「またまた、そんなこと言って。そういう素直じゃないところも死ぬほど可愛いけど」
「可愛いとか言うなっ……ん、んぅ……」
本格的に怒り始めた蓮の唇を、唇で黙らせる。御門の胸を押し返そうと力なく持ち上がった白い手首をぐっと掴んで引き寄せ、ぐらりと傾いだ蓮の身体を、どさりとソファに押し倒す。
「んんっ……ばか、はなせ……!」
「離さない」
御門はそう言って上半身を起こすと、しゅるりとネクタイを抜いた。そして手早くボタンを外し、香水の匂いが染み付いたワイシャツを脱ぎ捨てる。そして御門はもう一度身を屈め、蓮の頬を指の背で撫でながら、ふわりと微笑みを浮かべた。
「俺の心も、身体も、全部蓮のものだよ」
「ん……そんなの」
「知ってるだろ?」
そう囁きながら蓮の首筋にキスを落とすと、瑞々しい肌がぴくんと跳ねた。ちゅ、ちゅうっ……とリップ音を響かせながら喉元を吸い、舌を伸ばして耳たぶや耳孔を愛撫すると、蓮はあっけなく「ぁ、あっ」と濡れた声を漏らし、御門の首にすがりつく。
「はるひと……っ……」
「蓮……好きだよ。大好きだ」
「待っ……。また、こんな明るい部屋でっ……」
「ちゃんと見せてよ、蓮の気持ちいい顔」
「ばかっ……!! ァっ……」
バスローブの紐を解き、蓮の裸体を露わにする。下着をつけていなかったため、伸びやかな肢体と、硬く屹立した性器があっさりと露わになった。ほんの少し触られただけで高ぶってしまった肉体を恥じるように、蓮はふいと顔を背けた。御門は笑みを浮かべつつ、赤く染まった耳や首筋にキスをしながら、尻から腰、腰から脇腹、そして脇の下から桃色の小さな尖へと、淡く指を這わせていく。
指先で辿る蓮の肉体はしっとりと火照っていて、御門に触れられることを待ちわびているように感じた。御門の指先に触れられるたび微かに震え、腰をくねらせながら快感を拾う艶やかな吐息に、御門は一瞬にして溺れていた。
「本当に……綺麗だよ。蓮」
「ぁ、あっ……っ……」
「すごく、綺麗だ。……蓮……もっと乱れてよ」
「あ、ぅあ……!」
唾液で濡れた唇で敏感な突起を舐めくすぐると、蓮はびくんっと全身を震わせて、甘い悲鳴をあげた。
きつく吸い、硬くしこったその形を確かめるようにねっとりと舐め回し、舌先で弾くように愛撫する。同時にもう片方のそれも指先でくにくにと弄んでいると、蓮の喘ぎはますます熱い色香を帯びて、御門の興奮を激しく煽った。
「ぁ、ああ、ぁん、や、やめろ、ばかっ……そこばっかりっ……」
「ここだけじゃ足りない? 下も触って欲しい?」
「ちがっ……アっ……ぁ、あっ」
「かわいいね、蓮。乳首だけでこんなに乱れて……ほんっと、エロい」
「ァ、あぁ、あう、っ」
いつしか蓮の腰はなまめかしく上下に揺れている。そして、すでに硬く硬く盛り上がった御門のペニスに、自ら腰を擦り寄せているではないか。快感を求めて貪欲になり始めた蓮のとろけた表情と、甘く薫るフェロモンに誘われて、吸い寄せられるように蓮の唇を深く覆った。
いつになく積極的に、蓮からも舌を絡ませて来てくれる。しなやかな腕が首に回され、ぐっと引き寄せられることに、求められる喜びを感じた。濃密なキスを交わしながら、御門は腰を浮かせてベルトを緩め、スラックスの前をくつろげる。そして、ねっとりとした蜜に濡れ、アルファを求めてひくつく蓮のそこに、指を這わせてゆく。
「ん、ぁっ! ……はるひと……」
「蓮、すごい。……もう、こんなに濡れて」
「ううっ……言うなばかっ! そんなこと……!」
「ごめん。はぁ……もう、蓮が可愛すぎて頭おかしくなりそうだ。こんなに、俺のこと欲しがってる」
「あ! ぁっ、やっ、あん」
指を抽送するたびに、ぬちゅ、ちゅぷ、といやらしい水音が響く。蓮は顔を真っ赤にしながらかぶりを振りつつ、「やめろばかっ! そんな音、いやだっ……」と怒ったような顔をしている。だが、蓮の腰は御門の愛撫にとろけて淫らに動き、怜悧な瞳は涙でしっとりと濡れている。いつもは氷のように美しい高嶺の花が、こうして自分の指の動きひとつに翻弄されているさまが、愛おしくて愛おしくてたまらない。御門の理性は焼き切れる寸前だった。
――誰よりも美しく気高い蓮さまが、俺の愛撫でこんなにもエロく乱れてくれるんだもんな……。
アルファだと思っていた頃は、憧れることさえおこがましいと思っていた。なのに、蓮を見るたび胸は高鳴り、何度となく妄想の中で淫らに抱いた。そんな蓮のすべてが、今は、御門だけのものになったのだ。
――俺の、番。俺だけの……。
「はぁ……はぁ……っ、ごめ……もう、挿れるな」
「ちょっ……待っ……あ、ああ、あっ……!」
「はぁ……っ……蓮……」
切っ先をすんなりと飲み込み、とろけながらもきつく締め付ける蓮のそこは、何度経験しても極上の快楽を与えてくれる。いつになく性急に最奥を突かれ、蓮は「ぁ、ああ!」とか細い悲鳴を上げながら、屹立から体液を迸らせた。きゅうきゅうとひくつきながら御門のペニスを締めつけ、熱くとろけた蓮の体内で、御門はゆるゆると腰を上下に揺らしてみた。
「あ! あああっ……ぁんんっ……!」
「……蓮……もうイったの?」
「だ、だって……あぁ、んっ……う」
「ごめ……もう動くよ。気持ちよすぎて……!」
ぎりぎりまで肉棒を引き抜き、一気に奥まで貫けば、蓮は恥じらいを忘れて「ぁぁん!」と甘くはしたない声を漏らした。その声にさらに煽られ、御門はさらにずん、ずん、と激しく深く腰を振る。蓮の膝裏を掴んで大きく脚を開かせて、愛液でとろとろに濡れた結合部を見下ろしながら、御門は何度も何度も蓮を穿った。
「あ、あ、あぅ、あ、あ、っ!」
「……はぁ……はっ……はぁ、エロ……」
「あ、また……イきそ……はァっ、あっ、あぁっ……!」
「イって、見せて……。俺のコレで、何回でもイってよ」
「あ、ああっ、あぅっ……ん、んんーーっ……!」
絶頂を前にして細かに震える蓮の身体を、ひときわ激しく突き上げる。すると蓮は御門の背中に爪を立てながら身体を縮め、ビク、ビクっと腰を跳ねながら、御門の精を搾り取るかのように激しく達した。
背中のぴりりとした痛みと、腰に巻きついた長い脚。そしてしっかりと御門にしがみついて、絶頂の余韻に酔いしれている蓮の全てが、たまらなく愛おしい。御門は蓮の耳元にキスをして、「蓮のイくとこ、まじで可愛い」と囁く。
「う、うるさい……!! はぁ、はぁっ、はっ……」
「かわいすぎて、俺までイキそうになったし」
「なんで、いつも僕ばかり……はぁ、はぁ……」
「蓮を喜ばせたくて、つい頑張っちゃうんだよな。ほら……まだいける」
「あ、あん」
くいくい、と腰を軽く振ると、不意打ちをくった蓮は眉毛をハの字にして、びくっと背中を震わせた。そのいやらしい表情に再びむらむらと欲望が沸き起こり、抜かずにもう1ラウンド……と思ったその時。
蓮の部屋の置き時計が、午前零時を告げる鐘を鳴らした。
新しい年の訪れである。
「……年が明けた」
と、御門に抱かれたまま、蓮が小さな声でそう言った。御門は微笑み、ぐいと蓮を抱き上げて自分の上に跨らせ、戯れのような甘いキスを何度も交わす。
「Happy new year」
御門がそう口にすると、蓮はふっと表情を綻ばせ、優しい瞳で御門を見つめた。そして御門の鼻先にキスを落としながら、蓮は「Happy new year to you too」とささやいた。
「愛してるよ、蓮。これからもずっと」
蓮の金色の髪に指を絡め、翡翠色の美しい瞳を見つめながら、御門はそう言った。すると蓮は恥じらうように目を伏せつつ、赤く火照った唇を震わせる。
「……う、うん。僕も、だ」
「……ふへっ。あぁ〜〜〜ほんっと幸せ。蓮、大好きだよ」
袖だけひっかかっていたバスローブを脱がせてしまい、恥じらう蓮の裸体を抱きしめる。繋がったままそんなことをされた蓮は、「ふぁっ」と鼻に抜けるような甘い声を漏らし、顔を真っ赤にして御門の肩を押し返した。
「わ、分かってる。分かったから、もう、その……抜けよ。一回シャワー……ぁっ」
「抜かない。もう一回しよう。姫始めだ」
「な、何言ってんだばかっ! ちょっ……ぁ、やめろっ……ァっ……」
向かい合って、何度もキスをして。
汗ばむ肌を重ね合い、心地よいぬくもりに溺れながら過ごす、とろけるような甘い時間。
新年を迎えたばかりのしんと冴えた夜空から、綿のような新雪が、ふわふわ、ふわふわと舞い始めた。
『A happy new year』ー御門目線ー ・ 終
˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚
明けましておめでとうございます!!
本年も、どうぞよろしくお願いいたします٩(ˊᗜˋ*)و
餡玉
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