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第7話
掌を水面に落とす。パシャンと音がする。
なんてのをぼんやり繰り返す。俺を全身磨きあげて浴槽に放り込んだ彼が今自分を洗っている。頭に泡がたっぷりなのは俺が浴槽から手を伸ばして洗ってあげたからだ。
付き合いを始めた時から肉体関係があって、付き合いを続けて段々と心も寄り添った間柄だから、我ながら砂吐くくらいに甘ったるいと思う。
毎日忙しくしていて夜には力尽きるから、このくらい甘やかされると癒される。別に甘やかして欲しいとお願いしているわけではなくて彼から自発的にしてくれることだからこそ、愛されてるんだって安心するんだ。
そもそも、本人は全く興味のないBL本を頼まれて買ってきてくれる時点で、愛されてるのは自覚してるけど。体感するのとはまた別だ。
シャワーでざっと泡を流して彼が浴槽に入ってくる。二人で入ると少し狭い。俺が入って水面がギリギリだったから、さすがにざばーっとお湯が溢れ出ていった。背も高いし筋肉質な人だから仕方がない。
「はー。極楽」
年寄り臭いことを言って、壁に凭れて座った自分の上に俺を抱き寄せる。若さのせいか、何もしてないのに彼の股間はすでに準備万端だ。まぁ、俺も反応はしてるから他人の事は言えないけど。
彼の胸を背凭れにして身を預ける。彼の悪戯な指が俺の胸の上を徘徊するのを感じる。彼の頬と俺の頬が自然に擦り寄っていく。
うん。まったりだ。
「今週は水木金でバイトになった」
「そうなの? じゃあ、次は土曜か」
「昼は食ってくるからゆっくりしてろよ。何かおつかいあるか?」
「食料くらい、かな」
「そいつは、来てから一緒に行けば良いさ。なら、寄り道なしだな」
バイクだから大した量は積めないけれど、徒歩よりは機動力があるからとこうして買い物を聞いてくれる。
俺が頼むのは大体本か筆記用具等の拘りが入る消耗品。代金は「お前の買い物に俺が出してもおかしくないだろ」と言って受け取ってくれない。かわりに旨いもの食わせろ、だそうなので自然と料理の腕は上がったと思う。
そうはいっても忙しい日は今日のように保存してある食材を焼くだけとかしかできない。余裕があれば手の込んだ料理もするし料理本も開くけど。
ちなみに、得意料理はミートローフ。
「そういや。土手の桜が満開だったぞ。週末行くか? ついでにブランカで肉食いてぇ」
「良いね……って。メット持ってくるの忘れてた」
「受け取ってくるわ。連絡だけしといて」
はーい、と良い子のお返事。デートの予定が嬉しい。後ろから抱き締められているのも、嬉しい。
去年の夏に誘拐未遂を助けられてお礼がわりに強姦紛いに犯されてから始まった関係は、彼が度々学校に押し掛けてきて捕まって犯されてを繰り返しているうちに段々と気持ちがお互い傾きあって、謝られて口説かれて秋に改まってお付き合いが始まった。
思い返してもびっくりな馴れ初め。運命だったんだろうな、と思う。
だから、一緒にお花見は初めてだ。
「楽しみだな~」
「夜桜もなかなかだったからな。週末までに散らないと良いな」
「雨予報はないから大丈夫だよ」
散ったら散ったで花弁の絨毯になってまた綺麗だし。そもそも桜はダシでしかなくて、彼氏とタンデムデートが主目的だし。
「それはそうと。今日の仕事は終わりか?」
「うん。午後丸々頑張ったからもうしない」
「だったら、泊まってって良いな?」
「良いけど。明日学校間に合う?」
「明日は1年のオリエンテーションだからな。部活やってない上級生は休みだ」
だから、彼も休みだというわけだね。朝もゆっくりで良さそう。
家が遠いと平日に泊まれないのは、確かに不便だなぁ。
許諾の返事がわりに、腰から捻って彼にキスを返す。触れるだけのキスは触れた瞬間に主導権を奪い取られて貪られた。強く吸われる舌の根が気持ちいい。
胸を弄っていた指にピンと弾かれて、快感に背中が跳ねた。
「そろそろ出るか。のぼせそうだ」
うん。そうですね。
彼の名前は稲嶺高吉 という。ひとつ歳上の高3。お祖父さんが沖縄の人で、そのおかげで彫りの深い精悍な顔立ちをしている。
バイトは16歳の誕生日に取った中型二輪免許を活かしてのピザ屋の配達。って、それ原チャ免許で良くない?と突っ込んだのも記憶に新しい。
中学もまともに行っていない彼は地域で有名な不良校に通っている。
出会った頃は髪を染めてピアスもアクセもじゃらじゃらだったけど、黒髪の魅力に目覚めたとか言って脱色をやめ、アクセサリーも大多数を外してしまった。今はピアスが右に1つ、左に2つと去年の誕生日に俺からプレゼントしたブレスレットだけ。
そもそも、勉強していなかったせいで学力が足りなかっただけで、やればできる基礎力のある人だった。
理数系に強い頭脳は半年で3年分くらいの遅れを取り戻してしまっていて、英語はワケわからんと頭を抱えているけど、逆にいえば他は同年代に追い付いている。3学期の成績は英語を除いて5が並んでいた。
バイク好きが高じて、工学系の専門学校を狙って独学していたのが良かったのだ、とは彼の自己分析だ。
ついでに、歴史好きなおかげで社会と古文漢文は授業いらず。源氏物語を古語のまま読めると聞いた時には唖然としたものだ。好きなものはとことん追及する性格が見事に効を奏している。
俺なんかずっと真面目に勉強していても成績上がらないから、なんか悔しい。
「どうした? 考え事か?」
風呂上がりにそのままベッド直行で愛撫を受けていたから、急にむっと剥れた俺に心配の目を向けてくれた。
何でもない、と答えるのは本当に何でもない時だけ、というのは去年倒れた時に厳命された約束事だ。
だから、心配しながら頭を撫でるだけに止めてくれる彼に感謝する。
「集中しろよ」
「ん。ごめん」
謝ってその広い背中にしがみつくように手を伸ばす。ちゅっと音をたてるだけのキスを皮切りに、上から順にキスの雨が降り注ぐ。彼の優しいキスと卑猥に動く指先に俺の身体は意思も無視して蕩けてしまう。
やわやわと握り擦られながら、後ろの入り口もマッサージするように解されていく。どうでも良いけど、器用だなぁ。
やがてたどり着いた唇が俺の分身を飲み込むのと後ろの口が彼の指をくわえるのはほぼ同時。最初はどうしても抵抗があるのを前の快感で誤魔化してくれる。
こうして始めるのは毎回必ず同じだ。そのあとは日によって違うけど。
うちの彼氏は元ヤンの尽くし系包容力攻め。どんだけギャップ萌えですか。
あ。
このあとはご遠慮くださいね。自分の喘ぎ声なんてお披露目できません……
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