8 / 42
第7.5話(3人称)
(濡れ場は主人公が語り放棄のため、おまけ扱いとさせていただきます。ご了承ください。読み飛ばしていただいても物語に影響はありません)
1LDKの教員寮は、リビングと寝室が蛇腹状の扉で仕切られている。その扉を開け放ったまま、部屋中の明かりを消してもぼんやりと薄暗い室内に蠢く一塊がベッドの上にあった。
冷蔵庫のモーター音に浴室の換気扇。掛け時計の針の音。その中に混じって、荒い息遣いに卑猥に濡れた音が鼓膜をそっと叩く。
鍛えられた筋肉質な身体で組み敷いた恋人を押さえ、小柄な体格に見合った本来の目的に使われたことのない若い中心を嘗めしゃぶる。
滴るのは唾液と先走りの雫。溝にそって落ちていくが、シーツに落ちる前に掬われて後腔へ導かれていった。
溢れそうなほどに濡らされた後腔はすでに3本の指を食んでいた。
軽く膝を曲げて入り込んだ身体で広げられた脚が、快感に震える度に相手を叩く。急所を掠めて焦らされるせいで、指を追って腰が揺れた。
「……ね」
「ん?」
まともに息も吸えない中でねだる甘い声に、問い返しながら高吉はくつりと喉を鳴らして笑った。イヤイヤと首を振る恋人が可愛くて苛めてしまうのを止められない。
「どうした?」
行為を始めるまでは余裕綽々で甘えて見せる麒麟も、手順が進めばされるがままに喘ぐだけだ。目線も定まらずにただ溺れる人さながらに高吉を求めてしがみつく。
頼れるのは高吉だけだと無意識に言われているようで気分が良い。
「も、はや、く」
「何が欲しい?」
「たか……し、ほし……」
「うん?」
「……お、く。……えぐ、ってっ」
「いいよ」
良くできました、と誉める仕草で頭を撫でて、埋めていた指を抜き、片足を抱え上げる。
最初の頃に意に沿わぬ行為を強いた代償なのか、正常位よりも崩した体勢の方が強い快感を感じる身体に開発されてしまっていた。
それを満たしてやるのは開発してしまった側の罪滅ぼしだろう。自分好みの身体だと責められれば否定はしない高吉ではあるが。
トロリと潤んだ瞳で見上げられれば止まれる男などいはしまい。まして、愛しい恋人ならなおさら。
「んあああぁぁっ」
宛がった直後に一気に奥まで貫く。
体勢を変えた時に背中から離れた手が捕まえた枕にしがみついた。衝撃で軽く放ってしまった白濁が片足を跨いで支えてくれている高吉の片足に浴びせかけられている。
片足を担ぎ上げ片足を跨いで二人の身体がパズルピースのように繋がる体勢。松葉崩し、と名前の付いたそれは、48手のうちのひとつだったか。
達したのに応じてきゅっと絞りあげてくる内壁に持っていかれそうになるのを、じっと堪えてやり過ごす。
ヤりたい盛りの年頃とはいえ、一度達してしまったら復活まで少し時間がかかる。夜はこれからなのにそれはもったいない。
麒麟の身体が突き入れられた異物に慣れるのを待って、同じ男とは思えない華奢な腰を掴む。しっかり押さえて突き上げれば、麒麟の唇をつくのは甘い悲鳴だ。
これ以上は入らないほどの深さまでぴったり入っているその奥壁は少し刺激するだけで快感に戦慄いた。
受け入れることに快楽以外感じなくなっていることを恋人をよく観察して確かめて、ようやく高吉は自分に掛けた箍を外す。
自分も当然気持ち良くなりたいし恋人の中にありったけぶちまけたい本能がある。けれど、一緒に気持ち良くならなくては意味がない。
受ける側の負担が大きいのも本来の使い方と真逆なことをしているのだから当たり前で、だからこそゆっくり慣らして相手に快楽を与えるのが先だと思える。
確かに、高吉にその手の物語を読む趣味はないが。ぶっちゃけて言うならば、良い教科書だった。
「麒麟」
「ひぁっ……んっ…?」
「そろそろ一回いくぞ?」
一回で済ませる気などさらさらないことまであっさり告げる。そんな酷い彼氏に、麒麟はふわりと微笑みを浮かべて何度か頷いた。
揺さぶられる力強さに身を任せ、喉を震わせる喘ぎ声をあえて抑えずその耳に届けて。
「あっ、あんっ、……っふ、ぁあ、あ、あっ……っ!」
「……っく」
絶頂に達したのと同時に身体の奥深くに叩き付けられるモノを感じて、愛しい人に自分の身体で感じてもらえた悦びで心身ともに歓喜に震える。長く続く余韻が怒張を食んだ後腔の痙攣を促し、達したばかりの高吉の分身に力を与えていく。
性交渉はまさに共同作業なのだろう。
抱え上げていた片足を下ろして正常位に体勢を変えて、小刻みに揺らして刺激を与えてやれば、敏感になっている麒麟の喉から甘いため息と甘える声が溢れ出す。
「休みたいか?」
「んーん。来て」
緩く首を振って掴まるように伸ばす麒麟の腕を自分にしがみつかせて、高吉はまたゆっくりと動き出した。
ともだちにシェアしよう!