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第9話

 この学園は、月毎に何かしらのイベントがある。授業の一環に含まれるものがほぼ3ヶ月毎、予定のない月は生徒主催だ。  そのため、生徒会は毎月忙しい。4月は部活動紹介を兼ねた文化展示会がゴールデンウィークに合わせて開催されるため、これの準備に追われていた。  ちなみに、5月末は体育祭、7月7日に七夕に合わせた織姫彦星コンテスト、夏休み中に寮の居残り組で水泳大会、9月はグルメコンテスト、10月には生徒会選挙を兼ねた人気ランキング投票、11月3日は文化の日で文化祭、12月はクリスマスパーティー、1月はマラソン大会、2月はバレンタインに合わせたイベント事を生徒会主催で実施することになっている。  去年のバレンタインは会費を集めてのスイーツブッフェだったそうだ。  俺は部活動なんてしている暇はないので傍観一方。 「通俗文芸研究会あたり入っといても良いと思うよ」  とは嘉人さんの言だ。お堅い純文学は文芸部に任せて、ライトノベル辺りを読み散らかす部なんだとか。会合とかあるのかな、それ。それぞれ勝手に活動してそうだ。  ゴールデンウィークに合わせて、といっても、大型連休は社交界もそれなりにイベント事が目白押しで、家の都合や趣味の都合などで出掛けている学生も多い。中3日の平日に休みを取る学生や教員が多いので授業に身が入らない分の登校理由になれば、というのがこの時期に開催されることになった経緯だとのこと。  開催場所は理科室や音楽室などの特別授業用の部屋を詰め込んだ特科棟だ。開催期間は授業を通常の教室で行ってもらい、文科系課外活動グループがそれぞれに希望申請して部屋を借りきり展示物を公開する。  折角なので一回りしてみる。カナっちは生花部に所属していて、温室の世話の記録発表や活け花の展示をしている部屋に期間中常駐だ。  他にも新聞部や昼の番組を校内放送している放送部の活動報告、天文部はオリジナルプラネタリウムの展示、絵画部は作品展、科学部は簡単な実験体験、文芸部と通俗文芸研究会は蔵書の読書スペース提供と創作物の展示販売を行っている。  嘉人さんのおすすめだった通俗文芸研究会は確かに俺の守備範囲だった。ライトノベルはあまり読まなかったため、題名や簡単な傾向までは知っていても初読が多い。思わず入り浸ってしまう。  そうして、速読だろ、と彼氏に評された読書スピードで読破している最中だった。集中していて回りの音が聞こえていなかったんだ。 「……んっ! 麒麟っ!!」  ガクガクと揺さぶられてびっくりした耳に、俺の名を呼ぶ大声がダイレクトに直撃。構えていなかったから余計に脳に響く。  久し振りに王道転校生梅沢の登場だ。  ってか、人の読書の邪魔をするな。 「やっと反応した。何だよ、無視すんなよ!」  無視って。  まぁ良いけど。 「何か用?」 「用がなきゃ話しかけちゃいけないのかよ!」  この場合、いけないんじゃないかな。うん。他人の読書の邪魔するとか、ダメだろ。 「用がないならもう良いよね」  断っとかないとまた無視しただの何だのと五月蝿そうだから。それだけの理由で一応程度に断って、読書に戻る。しばらくは五月蝿そうだけど、いなくなるまでの辛抱だ。  そう言えば一人らしい梅沢は俺が構ってやらないのに一通り剥れてから、折角来たんだしくらいの軽さで展示物を手にとって、あーでもないこーでもないと勝手に騒いでいた。室内には俺と梅沢と部員の3人きりだ。  展示物は大半はライトノベルなので、表紙は可愛い絵が描いてあっても中身は活字で構成されている。ぱらぱらめくるだけでは何もわからないと思う。  その内、展示の中でも特殊な一角にたどり着いたようだ。 「うわ、女同士でくっついてら! カワイイ!」  その一角は、一体誰の趣味なのかBLやGL、両性具有なんかが集められていた。ジャンルの傾向まで駄々カブりで、是非お友だちになりたいとか思ってしまったものだ。全部うちの実家の本棚にしまってあるものだから、改めてここで読む気はないけれど。 「こ、こっちは男同士かよ。キモッ!」  いや、まぁ、確かにね。男にはよくある反応だから今更どうこう言わないけど。ついさっき女同士が可愛いとか言ったくせに男同士はキモいって、どんな差別よ。どっちも同性愛にはかわりない。  それにしても。リアルで同性愛の巣に生活しといてその反応って、まさかいまだにこのBLカップルだらけな現状に気付いてないのかな。  気付いてないんだろうな。 「……梅沢」 「んっ? 何? 呼んだ?」  自分でも思ったより低い声が出てしまったのは、まぁ、不機嫌の現れなのだけど。  振り返った梅沢はパアッと満面の笑みだった。  あぁ、これか。王道馬鹿がモテる理由。  キャンキャン吠えまくる馬鹿犬でも尻尾振り全開で無心になつかれると不本意にも可愛く見えてしまう。バカな子ほどカワイイって心理だ。  が。俺にはまったく効果ない。空気読めない馬鹿は大嫌いだ。 「五月蝿い」  じっと見つめて苦情を陳情。とりあえず黙れ。  言われた途端に頭上の耳と尻尾がしなしなと垂れたようにも見えたが、構う気もなく読みかけの本に視線を落とす。立て込んだ仕事もない大型連休中くらい、静かに読書させて欲しいというものだ。  この一件で奴が同性愛に感心を持ったのは、大誤算だった。

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