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第27話
例年、生徒会役員選挙は抱きたい男抱かれたい男投票で行われてきた。それが今年から方針変更で、単純な人気投票に変わった。
理由は簡単。去年両方で不動の一位だった生徒会長の恋人である学園理事長が嫌がったからだ。
そんなわけで、今年の人気投票は生徒会役員、抱きたい男、抱かれたい男の3投票同時開催になった。
生徒会役員選挙が方針変更になったことで仕事のネタを失った新聞部が、だったら新聞部が主催してしまえ、と動いた結果だ。
何でこうなった、と鉄良さんは頭を抱えているけれど、まぁ仕方ない。
生徒会役員選挙は名目が限定的になった分披選挙者にも制限があって、現3年生は除外される。
書いても無効票扱いだ。立候補無しの人気投票であることは変わらず、ただし単純な人気投票だけにセックスアピールとは無関係に選ばれることになったため、結果の予想がつかない。
投票日は10月のハッピーマンデー前の金曜日。翌火曜日には結果と新生生徒会メンバーが発表されることになっている。
開票は先生方が行うことになっていて、役員決定の調整は生徒会顧問の教頭が直々に行うらしい。
生徒会役員から外れても前年役員は寮の1階部屋を使わせてもらえる。部屋数が余っているのと、前任者として助言などが簡単にできるという利点があるからだ。
なので、現役員たちも別に引越し準備する必要がなくて、投票当日でも学園祭準備に忙しくしていた。
引き継ぎ資料の整理なんかもまったくしていないらしいけど、次期も選ばれると思っているわけではなくて、いつ自分がいなくなっても誰かが代わりになれるように日々の仕事から気をつけているおかげだそうだ。嘉人さんの絶対方針でメンバーに徹底されているのだと齋藤がこっそり教えてくれた。来期は頑張ってね、という意味深な言葉と共に。
いやいや。例え罷り間違って一番に選ばれたとしても辞退しますよ俺は。過労で死にます。
結果発表の火曜日早朝。掲示場所となる学生玄関前掲示板は当然の人だかりだった。あまりの混雑ぶりで教室に向かうのも困難だ。
離れたところからでも一位は人だかりの頭上に見える。で、それを眺めていた俺の横から声がした。
「やれやれ。テツさん宥めるの大変そう」
見返せばやっぱり嘉人さんだった。騒ぎに巻き込まれる前に教室に行っておこうとでも思ったのだろう早い時間なのだけれど、それでもこの人数だから思惑は大外れだな。
「おはよ。一位総なめおめでとう」
「勘弁してよ」
苦笑と共にそうこぼして、嘉人さんは逃げるように立ち去った。教室とは逆方向だから、朝から生徒会の仕事だろう。
掲示板には生徒会役員選挙の結果と新たな役員の発表。その隣に新聞部が同時開催した人気投票結果が並んで貼り出されている。それらのすべてで、一番上の名前は「佐久間嘉人」だった。
生徒会長2期目突入だ。
「あら、サクサク逃げちゃった?」
嘉人さんが立ち去る姿が見えていたらしいことを言ったのは、隣にやってきたカナっちだった。
それからやっと掲示板を見たようで、感心したように口笛をヒューと吹く。
「さっすがサクサク」
「おはよ、カナっち」
「おはよう。抱きたい男2位のキリくん」
……えっ!?
言われて慌てて掲示板を見上げた。
……本当だ。
「勘弁してよ。どこの誰だ、こんな平凡顔のちびっこ抱きたがるヤツ」
「でも、女装して化粧すれば絶世の美女だしね。しょうがないんじゃない?」
「絶世のってほどではないでしょ」
「キリは採点辛い。化粧すればサクサク超える美人さんなのに」
「それは化粧の力なだけじゃん」
その条件付きが一番の問題だ。苦笑して返せば何故かニヤニヤ笑いが返ってくるんだけど。
教室に入ると、新聞部の一員である笹木から号外が手渡された。おめでとう、という言葉と共に。今回の結果の速報なんだそうだ。
掲示板では上位しか見えなかったから嘉人さんの一位ばかりが印象に残っているのだけど。
一緒に教室に入って同時に号外を手渡されたカナっちから、いきなり否定の言葉が漏れた。
「うっそ。何で俺?」
号外の紙面上には見知った名前がズラリと並んでいた。
生徒会役員選挙の結果では、2位に1年生で成績トップを独走する谷村くん、3位と4位は前期の生徒会役員の功績が正当に評価された池永と齋藤、5位が中等部時代から人気者な1年生の安倍川くん。次期生徒会はこの5人が役職に就く。
で、続く人気投票結果の20位までが載っているのだけど、カナっちが8位、俺は12位にランクインしていた。ついでにうちのクラス委員な吉川も16位に名前が見える。
このクラス、2年で学業成績の奮わない学生が寄せ集められたクラスではなかっただろうか。
次に抱かれたい男の上位20名がリストアップされていて、ここにもカナっちと吉川の名前が見える。しかも、こっちは3年生も含むというのに人気投票結果より順位が高い。カナっちはなんと3位。
俺は因みに、抱きたい男の方にしか名前がなかった。ちょっと凹む。平凡顔だからスッピンじゃ食指が動かないのだろうけどさ。
「やあ、おはよう。噂になってるよ、ご両人」
続いて登校してきた吉川にからかうようにそう言われた。
笹木から号外を受け取って礼を述べる吉川がさわやか好青年のようだ。けど、謎な台詞に俺はカナっちと顔を見合わせていてそれどころではない。
「噂?」
「そ。お前らいつの間に付き合ってたんだ?」
……おいおい。
普段つるんでるからって発想が飛躍しすぎだろ。
カナっちも大慌てで否定のため手を振る。
「勘弁してくれ。キリの彼氏に殺される」
「……殺しゃしないだろ」
「半殺しは確実だろっ」
「ん~? まぁ、事実ならそうだろうけど。噂だけならむしろ虫除けに利用しそう」
「喜んで虫除けになるから、上手く言っといて」
なんかテンパって面白いこと言ってるけど。利用させてくれるならこちらとしては助かるばかりだからな。
それ以前に、否定ついでに暴露とか、カナっちも勇気あるなぁ。高吉が手を下すまでもなく、俺から報復しちゃうぞ。
「鷲尾、彼氏いたのか」
ほら。吉川は聞き流してくれないキャラだ。
自分から話題が離れたのに気を良くしたのか、カナっちの口は止まらない。
「そう。外にな。なかなかおっかない雰囲気のイケメンだったよ。キリと並ぶとすげぇお似合いでさ。キリ相手だと視線とろっとろだし、もう溺愛って感じ」
「会ったのか?」
「キリが倒れた時に偶然ね」
そうでしたね、確かに偶然だけどね。
溺愛ってそんな、本当の事を言っちゃダメでしょ。
教室内で周りの部外者たちが耳ダンボですよ。
「……カナっち」
「いや、嘘は言ってな……」
「後で覚えてろよ」
「……え゛……」
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