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第29話
月曜日なのに遠い所をやってきた高吉に渡されたのは、何故かAquariusの社名が書かれた定形封筒だった。
入っていたのは同じメーカーの2枚のメモリーカード。シール部分にはマジックでCとPの文字が書いてある。
「何これ?」
「報復作戦の結果。俺も学校行ってる時間だったからまだ見てないんだ。一緒に見よう」
あっさり返ってきたけど。何それ聞いてないよ、って言っても良いですよね?
「麒麟には内緒で、ってのは菫さんからの指示だからな。全部自業自得に持ち込んだとはいえ、やったことは性犯罪仕返したようなもんだ。今の麒麟には刺激が強すぎるってよ」
これも辛かったら見なくて良いぞ、なんて続いた。甘やかされている、のだろうか。
渡されたメモリーカードを再生すべくPCを用意しながら今日実行したという内容を聞いて、その酷さに眉をひそめるのを止められなかった。俺が受けた事に対する報復なのは知っているけれど。
「まぁ、こんなことしても解決にならないのはみんな分かってるんだ。だから、仕掛けるだけ仕掛けてなるように放置してる。実質の解決は学園と親御さんがする事だろ? 法的手段に入ってるしな、むしろ法律使って解決しても晴れない鬱憤を少しでも晴らせれば良いってみんな思ってくれてるのさ」
そんなわけで、2ヵ所で実行されたやり過ぎのドッキリ企画の結果を菫さんがそれぞれまとめて高吉に持たせてくれたというわけだ。原本は菫さんの手で俺の執務室にある金庫に入れてくれてあるとのこと。
使ってないから好きにどうぞ、と渡してあった鍵をそんな用途に使われるとは思わなかったよ。いや、まぁ、好きに使った結果だと言われればそれまでだけど。
後ろからきつく抱き締められながら見た証拠物件の数々を、結局全部見てしまう。内容は分かるけれど決定的な部分が映っていないあたり、関わってくれた全員に気遣われていたのだと実感できた。
つまり、モザイクがいらない映像しかなかったんだ。
中でも橋元さんが撮ってくれた写真は、イベント屋経営者視点から唸らされた絶妙さだった。あからさまに輪姦現場なのに何故こうも淡々と撮れるのか。
「橋元さん、欲しいなぁ」
「……あ?」
「うちのカメラマンになってくれないかなぁ」
「あ、あぁ、そっちか。菫さんも同じ事言ってたな」
だよね。俺の感性を育てた人だから感想は同じかもっと具体的になるはずだ。
それにしても、やっぱりやり過ぎ感が拭えない。何をしたのかを聞けばやり過ぎたのは結果論だというのはわかるんだけど。
「これで人の気持ちを思いやれるようになってくれればラッキーだがな」
「親は無理だと思うよ。息子はどうか分からないけど」
ただでさえ長く生きた経験値故に頭が固い。さらにこれでは完全なる事故にしかなってない。自分の下半身の弛さに多少の反省点はあれ、それと梅沢の件とは結び付かないだろう。
息子の方は、相手が複数になったとはいえ俺がされたことと変わらない体験をしたわけだから、俺の気持ちも思い知ったはずだ。思い知っていてくれないと困るんだが。
「で? 感想は?」
画像を見終わってから俺が落ち着くのを待っていたのか、高吉から今更な問い掛け。それに対して俺は肩をすくめて返す。
「やりすぎ」
「ふっ。だな」
そこには異論もなかったようで、高吉も鼻で笑って同意した。
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