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第7話
「陽向、気持ちいい?」
「うん、すごく、きもちいい。あああ・・・征治さん、も、きもちいい?」
「ああ、最高に気持ちいいよ」
本当にそうなら嬉しい。
「あっ・・・でも、んんん・・・僕、もう限界か、も・・・」
「じゃあ、一緒に達こう」
そう言うと、征治さんはチュッと唇を啄んだ後、急に雄の顔に戻った。そしてグラインドのスピードを徐々に上げてゆく。
溜まっていた熱が沸点に向けて駆け上がっていく。
「ああ、陽向・・・」
切なげな声で名前を呼ばれて内側からも熱いものが溢れだし、益々早まった動きに、沸き立つ速度も一気に加速した。
「ふっ、あっ、征治さんっ!」
僕が叫びながら欲を吐き出すと、ほどなく征治さんも「陽向っ」と僕の名を呼び、体を強張らせた。
達ったばかりの僕のものと握ったままの手がドクリという脈動を感じたと思ったとたん、腹の上に熱いしぶきが降りかかった。
「ハッ、ハッ・・・陽向、大丈夫か?」
達った直後のまだ荒い息のまま、まず最初に僕を気遣って優しく頬を撫で、顔を覗き込んでくれる。
「うん、だい・・・じょぶ」
僕も呼吸が整わないまま、とにかく安心して欲しくて答える。
「良かった・・・。俺が欲に負けたせいで、マズいことにならなくて」
ぎゅっと抱くすくめられ、僕も腕を征治さんの腰に回す。
「僕が、ねだったんだよ。ああ、征治さん・・・僕、今、すごく感動してる」
「俺も、凄く嬉しい」
そう言って唇や鼻、額や目尻に優しいキスをくれた。
その後、いつもの様にホカホカにした濡れタオルを取りに行こうとする征治さんにしがみついた。
「もうちょっと、このままでもいい?」
征治さんは、ふっと笑って抱き返してくれる。
「ほんとに嬉しい・・・こんな僕が言えるはずないんだけど、『初体験』みたいだった。こんな風になるの初めてで・・・何もかも全部初めてって錯覚出来たというか・・・」
勘違いで脇腹を刺されるまでの3カ月だけでも、3桁の客との本番を経験しているはずだけど、当然こんな風に身も心も高まって快感を感じたことは一度だって無かった。
そして、たとえ実際に体を繋げられていなくても、今夜の行為は僕にとっては紛れもなくセックスで、唯一のセックスだった。
征治さんが僕を抱きしめる力を強めた。
「違う、陽向。本当に『初体験』なんだ。最近、性の快感を覚えたばかりの陽向は今日初めて恋人と愛し合ったんだ」
胸がきゅううとなって、なんだか泣きそうになる。
「長い性機能障害の期間は、一度リセットして最初からやり直すための期間だったんだよ、きっと。ふふ、そして、初体験の相手は俺だよ」
僕の耳の横の髪を優しく梳きながら、ゆっくりと話す征治さんは、また僕に暗示を掛けてくれようとしているのかもしれない。
優しい魔法使いの、愛の魔法。
そんな魔法ならどんどん掛かっていい。
やっぱり僕は征治さんがどうしようもなく好きだ。
それを伝えたくて征治さんの目を覗き込めば、「陽向、好きだよ」と先を越されてしまったので、たっぷりのキスとハグでお返しをしたのだった。
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