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第10話
だからというわけではないけれど。
この週末は征治さん不在で物件巡りをしないので、僕はごくごく小さな冒険に出掛けてみようかと思っていた。
征治さんと何度か出掛けたショッピングモールに一人で行ってみるのだ。マスクとストールは無しで、サングラスと襟付きシャツで電車を乗り継いで行く。
普通の人にはなんでもない日常の行動だろうけど、かつての僕にはとても無理なことだった。
征治さんが隣に居てくれれば凄く心強くてもうあそこへは行けるんだけど、半分顔を晒して一人であの人混みに飛び込んでいくのは、まだかなり勇気がいる。
だけど、僕もいつまでも征治さんに甘えてばかりじゃ駄目だ。
それでも今日を選んだのは平日より日曜日の方が混んでいて、店員さんもお客さんもそうそう僕の事を見ないだろうし印象も残りにくいと思ったからだ。
恐怖心と闘う以外の今日の目的は三つ。
1つは伊達メガネを買う事。
東京って真夏でなくてもサングラスをかけている人が結構いる。だけど流石にこれからの季節、サングラスがかえって目立つだろうから今持っている物よりゴツめのフレームの伊達眼鏡でカモフラージュして頑張ろうかと考えていた。
二つ目はタートルネックのセーターを数枚見繕うこと。
今までの毛玉だらけのヨレヨレを着て征治さんと並んで出掛けるのは憚られる。征治さんたら何を着てもカッコいいんだもの。征治さんみたいにお洒落な感じにできなくても、小綺麗にはしていたい。
三つめはペットショップへ行くこと。
前に通りかかった時、たくさんの可愛い子犬や子猫がいて、もの凄く気になっていた。もしかすると、僕の好きなピーターラビットみたいなウサギもいるかもしれない。
実は家の近くの公園の芝生広場で、小さい茶色いウサギに首輪を付けて散歩させているのを見掛けたことがある。
そのこと自体も驚いたが、草の上で遊ばせているウサギに飼い主が名前を呼びかけるとちゃんと振り向いたり寄ってきたりすることにびっくりしたのだ。
あれを見てから、僕はあのウサギに興味津々なのだ。
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