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第11話
「こんな遠く離れた大都会で、そうそう過去を知る人間にバッタリ会ったりするはずがない」と自分に言い聞かせる。
無意識に首の後ろを手で触れていた。
僕が苦しみから解放されるなら、自分も同じものを彫っていいと言ってくれた征治さんの言葉を思い出す。
征治さんは、この刻印を僕から征治さんへの愛の証明に意味を変えようと言ったけれど、逆に征治さんからの深い愛を確認するものにもなったのだ。
そうだ、もう僕は昔とは違う。
「よし!」と気合を入れて駅に向かって歩き始めた。
電車を乗り継いで行くのは、車で行くよりずっと時間が掛かった。
電車の中でスマホを見たりする以外は不自然に俯いてしまわないように気を付けた。大丈夫、ちらとこちらを見る人がいてもそれはたまたまだろう。ジッと僕を見ている人なんていない。
今日も人だらけのショッピングモールに入った時は、やはり緊張して少し汗をかいたが、「ここまで乗って来た電車と同じ。征治さんと来た時と一緒」と自分に言い聞かせるうちに落ち着いてきた。
なんとか伊達メガネとタートルのセーターを2枚購入し終えたときは、疲れはしていたが小さな達成感も感じた。
後は、自分へのご褒美タイムとしてペットショップで癒されよう。お客さんたちもペットばかり見ているだろうし、今までよりずっとハードルが低いはずだ。
はたしてペットショップのショーケースの前にはたくさんの人がいたが、皆一様に中の子犬や子猫を熱心に覗き込んでいる。
それに安心すると、僕もショーケースの中のおチビちゃんたちにすぐに夢中になった。
ああ、どの子もなんて可愛いんだ!
あの子犬、白ければ小さい頃のコタにそっくりだ。
昨今の猫ブームに僕は断然犬派だと思っていたけど、やっぱり猫も可愛いなあ。ふふふ、あんな小さい口であくびしちゃって。
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