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第13話

まだ不安気な顔をしている女の子に、「猫ちゃんが好きなの?」とメモ帳に子猫の絵を描いてあげると、やっと笑った。「ハムスターもすき」と言うので、ヒマワリの種を頬張っている絵を描いたら「くいしんぼさん」と笑ったので、ちょっと嬉しくなった。 その時、「まぁちゃん!」と甲高い声が聞こえ、ベビーカーを押しながら女の人が凄い勢いでこちらへ突進して来た。 「おかあさん!」 女の子がぴょんとベンチから飛び降りる。 「もう、まぁちゃんどこ行ってたの!心配したでしょ!」 女の子の顔を両手でムギュと挟んでそう言った母親は、次にキッとこちらを睨んできた。 あ、マズいかも。 娘を背後に隠すようにした母親は、疑いを含んだ目でジロジロと僕を観察している。 「あの、そこのペットショップで・・・」 事情の説明を始めたところで、パトロールしてるらしい制服を着た保安員のおじさんの方へ視線を投げられ、何も悪いことはしていないのに冷や汗が出てきた。 誤解をしているらしい母親に、しどろもどろで迷子の説明を再開したところで、制服を着たインフォメーションの女性が「ご連絡いただいた迷子のまおちゃんですか?」と声を掛けてくれて、ようやく事なきを得た。 気まずそうに礼を言って去っていく母親に、安堵とも溜息ともつかない息が漏れる。 あげた猫とハムスターの絵を手に、振り返った女の子の笑顔がせめてもの救いだ。 なんだかどっと疲れてしまった。 ウサギは今度にして、もう帰ろうと歩き始めてすぐだった。 一難去って、また一難がやって来たのは。 「ちょっと、すいませーん」 最初は、自分が声を掛けられていると気付かなかった。 目の前に二人組の若い女性が回り込み「あのぉ、ちょっといいですかぁ?」と見上げてくるまでは。 驚いて、思わず立ち止まってしまう。 ん?なんだ? ヒラヒラのついた服やキラキラするアクセサリーを付けている彼女たちは、僕より年下に見える。 だから絶対に僕の過去を知っていて声を掛けてきたのではないと分かるけれど・・・ 「あのぉ、お兄さんモデルさんかタレントさんじゃないですか?」 「なんか雑誌とかに出てないですかぁ?」 意味が分からず、黙って首を横に振る。 だが2人は背後の観葉植物に追い詰めるように前のめりで迫って来る。 「うそぉ、なんか凄い雰囲気あるから絶対そうだと思ったのにぃ」 「それとも、お忍びですかぁ?」 一体なんなんだ?彼女たちの目的が分からない。 「もし時間とかあったらー、遊びません?」 「一緒に写真撮って貰っていいですかぁ?」 写真と聞いてドキリとする。冗談じゃない、そんなの御免だ。断ろう。 「申し訳ないですけど、急いでいるので」 なんとかそう言ったものの、自分でも呆れる程小さな声しか出なかった。 そのせいか彼女たちはお構いなしで、キャッキャキャッキャッ言いながら、既に手にスマホを持って僕を挟んで横に並ぼうとしている。 「一緒にポーズ取りましょ?何にするぅ?」 その様子を通り過ぎる人達がチラチラと見てゆく。中には「あれ誰?タレント?」と遠巻きに立ち止まってこちらの様子を窺う女性組もいて、どんどん鼓動が早くなる。 立ち止まって人の流れをせき止めるその人たちのせいで、他の人までその視線の先を確認するようにこちらを向いて何事かと窺い始めてしまう。 たくさんの視線が矢のように放たれ自分に向かって飛んでくるような錯覚。 怖い。 「お兄さん、グラサン上に上げてくださいよぉ」 一人がサングラスの方へ手を伸ばしてくるので、慌てて腕でそれを遮った。

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