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第14話

早くこの場から逃げたい。断らなきゃ。 「あの、写真は困ります」 今度は大きな声で言ったのに、それでもカメラアプリを起動させるこの人たちは言葉が通じないのか? 聞いてくれないなら、立ち去るしかないと思った時、 「よお、待たせたな」 低く太いぶっきらぼうな声と一緒に、ぬっと大きな影が彼女たちと僕の間に割って入ってきた。 ハッとした。 しまった。きっと彼女たちは囮で本当に僕に用があったのはこの男だったんだ。心臓がドクドクいって、じわっと嫌な汗が出てくる。 逃げなきゃ。 そう思った時、彼女たちの男を見上げるポカンとした表情に気が付いた。 あれ?この大男とグルじゃない? その証拠に 「おい、俺の連れに何か用か」 と威圧的に聞かれ、ぶんぶんと首を横に振っている。 じゃあ、この男はなんだ? 少なくとも、僕の「連れ」ではない。 「向こうであいつも待ってる。行くぞ」 僕をどこかに連れて行こうとする台詞に我に返ると同時に、どっちにしろ逃げなきゃいけないと気が付いた。 だけど、彼女たちに背を向け、こちらを振り向いた男の顔を見て、また混乱に拍車がかかった。 え?え? 聞いていた声とは裏腹な、穏やかな微笑? 30代半ばに見えるその男は、がっしりとした体格に漢っぽい顔つきだが、決して粗野な感じではなく知的で、目の奥で笑っている。 僕は戸惑いながらも、望みをかけて問いかけてみる。 「あの・・・人違いでは?」 すると大男はほんの少し口角を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「ほら、あっちで待ってる」 彼が指さす方向を見ると、10m程先の壁際に立っているスラリとした人影。 間に沢山の人が行き交っていても、そこだけまるでスポットライトに照らされている様に存在感のある茶色い髪のイケメンが居た。

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