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第16話

気を利かせたのか、その後、八神さんはいくつか用事を済ませてくると言って席を外した。 「あの、いいんですか?お二人のデートの邪魔しちゃってるのでは・・・」 「ははは、いいんだよ。どうせ帰る家は同じなんだし。俺達、ここからすぐのマンションに住んでるんだ。一緒に暮らして、もう5年になる」 「あの、花村さん。僕のこともですけど、先日は征治さんを助けていただいてありがとうございました」 「ああ、関西出張の時のね。あいつは間違いなくクロだったと思うなあ。 クールな印象が強い松平さんが、出張先で時々スマホを見ながらすごく柔らかい表情するから、ああきっと大事な恋人がいるんだなと思ってたんだよね。だから、あの時もお節介しちゃった。 だけど、その後話してみて驚いたよ。彼に男性の恋人がいて、僕らと同じ幼馴染で初恋同士っていうからさ。親しみが湧いちゃって・・・ だからさっきも放っておけなかったのかもね。それにちょっと君と話してみたいとも思ったし」 ああ、そうだったのか。少し納得する。 「ん?この指輪が気になる?」 花村さんは左手をヒラヒラさせた。 サングラスだからわからないかと、つい無遠慮に見つめてしまっていたようだ。 「お二人は、その・・・パートナーというのは公表されてるんですか?」 「うん、今はね。お互いに準備が出来て、もういいだろうって。おかげで色々煩わしいのから解放されたよ。龍晟のやつ、凄くモテたからさー」 それはきっとそうだろうけど、花村さんだって半端なくモテただろう。 「風見君たちはまだクローズなんだっけ」 それは、ひとえに僕に自信がないからだ。 「安心して、俺達は誰にも話したりしないから。でも何か相談したいことがあったら遠慮なくどうぞ。連絡先、交換する?」 そう言って花村さんはスマホを取り出したのに、僕は躊躇してしまった。 「あ、無理しないでいいよ。風見君、色々ありそうだものね。そのサングラスも外した方がいいんだろうけど外せないしって、さっきからずっとグルグル迷ってるよね」 すぐに僕のためらいを見抜かれてしまい、申し訳なくて俯いてしまう。 「すいません・・・花村さんはきっといい人だと思うんですけど・・・僕、昔、人に騙されたことがあって・・・」 「そうなの。大変だったね。じゃあ、これを渡しておくよ」 僕の無礼を咎めるでもなく、取り出した名刺にさらさらとプライベートの番号を書き加えたものを差し出してくれた。 「事情を知る人に相談したいことが出来るかもしれないでしょ。保険のつもりで持っておいても損はないよ」 なんでこんなに親切にしてくれるんだろう。 「お節介野郎だと思った?でも気にしないで。これは、俺の生き方を色々考えた末に生まれたスタイルだから。また、そのうち機会があればそのことを話すことがあるかもしれない」 爽やかに笑う花村さんは、とても大人で眩しくかっこよかった。 その後、花村さんと八神さんにお礼を言って帰路についた。 とても疲れていた。 最初の3つの課題は一応クリアしたはずだった。かっこ悪くても迷子の女の子も助けられたはずだった。 だけど、とても気持ちは落ちていた。 すごく征治さんに会いたかった。

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