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第21話

「なぜ僕を探しているか言ってましたか?」 「なんでも、直接伝えたい大事な話があるんだそうだよ。君の連絡先を知らないかと聞かれたんだけどね、買収先の神奈川の工場へ移ったけどもう辞めたと聞いたと誤魔化しておいた。 悪い男には見えなかったけど、当然君の声が出るようになっていることも知らなかったし、何より君は過去に色々トラウマを抱えていそうだったから、勝手なことは出来ないと思ってね。 そうしたら、彼は移転先の神奈川の工場へ行って、行方を知っている知り合いがいないか訊いてみると言った。そして、もし連絡が付く様な事があれば、『れい』という男が連絡を欲しがっていたと伝えてくれと、電話番号とメールアドレスを書いた紙を置いて行ったんだ。 ちゃんとフルネームで漢字も教えてくれと言ったんだけど、風見君は『れい』という呼び名しか知らないはずだからと言っていたよ」 酒田さんから聞いた番号とアドレスをメモした紙を手にしたまま、一人部屋の中で呆然と立ち尽くした。 本当にあのレイなのか? 二人目の主人のところで飼われていた、もう一人のペット。 心身共にすぐれなかった僕のことを弟の様に世話を焼いてくれた。 二人で交わしたホワイトボードを介した秘密の会話に、僕の心は随分と慰められた。 そして、レイの「ここから逃げよう」という言葉のお陰で、僕は悪夢から抜け出せたのだ。 逃げた後また僕が泥沼に沈まないように、リスクを冒して群馬の工場に代理で電話まで掛けてくれた。 今こんなに幸せな生活が送れているのは、レイのお陰と言っても過言ではない。 本当にレイだとして・・・ どうして今になってレイは僕の行方を捜しているのだろう? 直接会って話したいことって? 彼のことだ、裏がないと信じたい。何か、今困っているのだろうか? もしそうだとしたら、今度は僕が力になってあげたい。 僕は、デスクの上のスマホに手を伸ばした。

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