22 / 144

第22話

「酒田さんがその男の写真を撮っておいてくれらたよかったね」 僕が弁当屋で買って来た総菜をつつきながら、征治さんが言った。 今日はまだ水曜日で、いつも僕が泊まりに来る週末ではないけど、僕が相談したいことがあるとメッセージを送ったら8時前に帰って来てくれた。 無理をさせたんじゃないかと心配したけど、征治さんは「問題ないよ」と笑うだけだ。 「もっとも、陽向の行方は知らないと言った手前、写真を撮るのは難しかっただろうけど」 「でも、多分レイだと思うんだよね。 『風見』があの工場で働いていたのを認識していたのは、当の工場の関係者とレイ、吉沢さんぐらいしか思い当たらないんだ。工場の関係者は、僕が神奈川の工場へ移ったことを知っているわけだから、わざわざ閉鎖された工場を訪ねたりしないはずでしょ? レイは僕の代理で求人に応募するとき僕の本名を言ったから知ってるんだ。だけど、僕は彼の本名は知らない。だから、彼も『レイと言ってくれれば分かるはず』という言葉を残したんじゃないかな」 「仮にその男性がレイだとしても、リスクがゼロになったわけじゃない。陽向の話を聞く限りレイはいい人のようだけど・・・人は弱みを握られると不本意でも動かざるを得ない時がある」 「誰かに脅されて、僕を呼び出すってこと?」 「あくまで可能性の話だよ。俺の親父は自分の身の可愛さから、陽向の親父さんは家族を守るために不本意な行動をとっただろう? もし、元飼い主の沢井がずっとレイと陽向を探していて、先にレイが捕まったのだとしたら?彼の恋人や家族を人質に取られたら、嫌々ながらも陽向を探し出すのに協力するかも知れない」 征治さんはレイを疑っているのではない。ただ、慎重に行動した方がいいと言っているだけだ。 「それに、人は置かれた環境で変わる。それは俺も陽向も自分で実証済みだろう?」 その言葉には説得力があった。 「陽向、レイの思惑が分かるまで、念のためこちらの居所は知らせないでおこう。悲観的になりすぎるのは良くないと思うけど、用心するに越したことはない」 征治さんは真剣な顔で言った後、表情を緩めて付け足した。 「それから、まず俺に相談してくれてありがとう。俺は陽向の周りで起きていることは分かっていたいよ。もう陽向は俺の一部だからね」 それは僕も同じ気持ちだ。だからこそ、まず征治さんに話したのだ。 もし、僕の今後が悪い方向に大きく動くとしたら、きっと征治さんも無関係ではいられないと思ったから。征治さんは僕を護る為に何でもしようとしてしまうに違いない。 つまり、もう僕一人の問題ではないのだ。

ともだちにシェアしよう!