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第23話

相談の結果、以前の様にフリーメールアドレスを取得して、万が一にも居場所を辿られないように公共の場所にあるパソコンを利用してメールを送ってみることにした。 征治さんによると、会社の人に頼めばレイのアドレスがどこのサーバーを経由してどこから発信されているかなど、よほど意図的に相手が隠そうとしていない限り、簡単に辿れるらしい。 ただ、相手側がその手の事情に精通していると、こちらが探った痕跡に気付かれたり、逆にこちらの発信元も暴かれてしまうそうだ。 征治さんのアドバイスに沿って、文章は端的に短く。そして、なるべく二人にしか通じない共通の話題を。 『レイ?Gへ行った?』 『シノブか?Sさん訪ねた。 無事だったか?』 暗号のようなこちらの問いかけに、すぐにこちらの意図を汲んだ返信が届いた。 さらに相手を確定するためのメールを飛ばす。 『念願のKZは行けた?』 『行った。涙出た。自由の味した』 『HOはうまかったけど、FOXはダメだったね』 『そうだったな。とくに和が酷かった』 このやりとりで、相手は確かにレイだと分かった。 シノブは、あの家での僕の呼び名。 アルファベットは略する言葉の頭文字。 HOはほくろおばさん、FOXは狐目おばさんの略。沢井の家にいた家政婦で、二人の料理の腕にはかなり差があった。 ホワイトボードでの会話はこういう略字をよく使ったのだ。 KZは回転寿司。もし脱出することが出来たらどんなことをしたいかと自分たちを鼓舞するためにもよく二人で話をした。レイは脱出したら、回転寿司に行きたいとよく口にしていたのだ。 『僕の事、探してた?』 『知らせたいことがある。 俺たちにとってはいい話だ。 できれば会って話したい』 『どこで会えばいい?』 『俺は今、富山に住んでる。シノブはどの辺?』 『僕は関東』 何度かのやり取りを経て、僕はすっかり今のレイの事を信用した。 『シノブ、Sさんの話しぶりからすると、 ちゃんとあそこで働かせてもらえたんだよな? 今は別の仕事をしてるっぽいけど、元気にやってるのか?』 『あの会社は辞めたけど、元気にやってる。 レイもあそこ出てから、危険な目に会ったりしなかった?』 『ああ、大丈夫だった。 俺も元気に働いてるよ』

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