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第25話
当日、約束の12時より30分早く個室に着いた。
元々、店には30分前で予約を取ってある。
こじんまりした個室だけど、白く明るい部屋の中で一人で待つのは、緊張も相まって落ち着かなかった。やたらと喉が渇いて、水ばかり飲んでしまう。
何度か席を立って、窓から外を見下ろしてみたり、伊達メガネをはめたり外したりしていると、スマホに着信ランプがついた。
『陽向、落ち着いてる?
今のところ、外の席に怪しげな人はいないよ。
何かあったら、すぐに知らせるんだよ?』
外の席に居る征治さんからだ。
『緊張してるけど、大丈夫』
『じゃあ、これ見てリラックスして』
そのメッセージの後、子犬や子猫、リスやハリネズミの画像が次々と送られてきた。そのうち、子豚やゴマフアザラシの赤ちゃん、オラウータンまで届いて、思わず笑ってしまう。
一人で過度に緊張していても仕方がないので、解そうとしてくれているのが分かる。
『俺の一押しはこれ』
ミニトマトの隣に同じくらいの大きさの、まあるい毛玉みたいなの。
なんだ、このキュートな生き物は!?
『バルチスタンコミミトビネズミ』
あまりの可愛らしさにふにゃりとなっていたところへ、コンコンとノックの音がした。
一気に気持ちが引き締まった。
店員に案内され、入ってきた男性は、紛れもなくレイだった。
記憶の中のアイドル系だった顔が、より精悍になり男っぽくなっている。
「シノブ!よかった、本当に元気そうだ!」
その人懐っこい笑顔にかつての面影が重なり、不安は一瞬にして吹き飛んでしまった。懐かしさがこみ上げ、思わず足早に歩み寄る。
「シノブ、お前、なんか・・・すげー綺麗になったなあ。あ、ちょっと待って」
レイは眩しそうに目をパチパチさせた後、そう言うと、リュックから大ぶりのノートとペンを取り出した。
ノートを開こうとするその手を押さえて首を振る。
「レイ、僕、もう喋れるんだ」
綺麗なアーモンド形の両目が真ん丸に見開かれた。
「!!・・・お前、ほんとにあのシノブだよな?・・・え、マジで!?いつから!?」
驚いて固まっているレイに、取り敢えず座ろうと椅子を勧める。
「こんな風に話せるようになったのは、最近。元々、先天性の発声障害じゃなくて、14歳の時、ショックである日突然声が出なくなったんだ。微かに声が出るようになったのは去年かな。それからリハビリしてなんとかここまで」
「そうか・・・そんなことってあるのか・・・よかったなあ・・・」
レイは驚きを隠すことなく、正面からまじまじと見つめてくる。
「シノブは・・・そんな声をしてたんだな。お前が話してるのってなんか違和感あるけど・・・お前はジッとでかい目で訴えてくるような感じだったからさ。だけど、その柔らかい喋り方は・・・うん、シノブっぽいわ。
そうか・・・声が出るようになったのか・・・マジでよかったなあ」
そう言いながらレイが涙ぐんだところで、店員がオーダーを取りに来たのでいくつか料理を注文した。
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