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第36話

途中、俺の早合点でヒヤッとすることはあったが、それも陽向の顔を見ながら追い上げているうち、可笑しく可愛く思えてきた。ふふ、俺が攻めているのに、俺に助けてって・・・。 それに、タイムマシーンがあったら過去の自分に未来で俺と再会できるから死ぬなと言いに行くって・・・それより、死にたくなる程辛い目に会う前の時点に遡った方がいいのではないかと思ったが、それは陽向の生きてきた道の全否定になってはいけないので口にしなかった。 まあとにかく、陽向は可愛いのだ。 最中にこんな事を考えて少し気を逸らさないと、すぐに持っていかれてしまいそうになるほど。 そんな状態なのに、陽向はまたもや「お願い」を繰り出してきた。おいおい、いつのまにそんな上級テクニックを身に着けたんだ? そして俺はまたもやあっさりと陥落する。 歴代の施政者達も閨で妻や妾にこんな風にねだられたんだろうな、それを阻止するために褥の傍に従者たちが控えてたんだもんなと頭に一瞬浮かんだが、当然陽向のおねだりに逆らえるわけもなく。 そして、いいという返事を聞いて、満足気に微笑み、快感の渦に溺れていく陽向の姿を見たら、もう何でも願いをかなえてやりたくなる俺も相当陽向に溺れている。 色っぽい陽向のイキ顔を拝んでから、自分の欲望も吐き出し、整わぬ息のままうっすら汗をかいていてる額にキスをして髪を撫でていると、さっそく陽向が口を開いた。 「ねえ、征治さん、さっきのお願い・・・」 「ん?」 大きな目で見上げてきたと思ったら、ぼんっとまるで音を立てるように一瞬で顔を赤くした。 「ねえ、あの・・・今日は最後までして。・・・ちゃんと征治さんと繋がりたい」 これが、陽向のお願い? ほんとに聞いてくれる?と念押しして、満足気な顔をしたお願い? たじろぐ俺に、瞳を不安げに揺らす。 「あんまり気が乗らない?あの・・・えっと・・・」 そこでまた、ぼぼぼっと首まで真っ赤になりながら目元を自分の腕で隠し、小さな声で呟いた。 「もう、その・・・綺麗にしてあるから・・・」 なんだって? すぐに言葉が継げずにいると 「もう、僕、大丈夫だと思うんだ。怖くないしパニック起こしたりしない。それに、今日は特別な日でしょ?だから・・・」 いつもより早口で言いつのる。 目元を覆う腕の隙間から俺の表情を窺っているのが分かって、その腕を掴んでおろさせる。 「なんで今日綺麗にしたの?」 「え、あの、マナーかなと思うし・・・」 「なんで今日、綺麗にしたの?」 今度は「今日」の部分を強調して同じ問いを繰り返す。特別な日というのはベッドに来てから俺が口にした言葉だ。 「今日・・・だけじゃなくって・・・えっと・・・少し前から・・・」 気まずげに視線を泳がせる。 ああだめだ、上から覆いかぶさって、こんな風に問い詰めたらまるで尋問だよな。 ティッシュで互いの腹に飛び散ったものを拭い、陽向と抱き合う形で横になった。

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