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第37話
陽向の頬をゆっくり撫でながら話しかける。
「ねえ陽向。こんな風に改めて聞くのは、普通ムードが無いとか、言葉にしなくても空気で分かれよとか言われちゃうような事だと分かってる。
だけど、俺と陽向の間のこれに関してはどうしても曖昧にしたくない。雰囲気や流れだけで先に進んで後悔するようなことは絶対にしたくないんだ。陽向が大切だから」
「うん」
「陽向は、そろそろ俺に応えなきゃ悪いって焦ったんじゃない?だったらそんな心配はいらないよ?」
「違う」
陽向にしては強い口調で答えが返って来た。
「征治さんが僕のことを大事に扱うために色々我慢してくれてるのは感謝してるし、たくさん愛情も感じてる。
だけど、だからって早く応えなきゃって焦ったりしてない。そんなこと征治さんが望んでいないってよく分かってるから。
僕が・・・僕が、・・・征治さんに抱いて欲しいんだ。ううう・・・どうやって征治さんと一つになりたいって、伝えて誘えばいいのか、よく分からなくて・・・うー・・・僕はいつもスマートにできなくて、みっともなくなるんだ・・・」
最後は半べその様な声で呟き、口をへの字にして枕に顔を埋めようとするので、グイと自分の胸に抱き込み、頭を撫でた。
「あーごめん、陽向、ごめん」
「うー、征治さんも悪いんだよぉ」
俺の鎖骨に自分の額をぐりぐり擦り付けながら、陽向が呻く。
「なあに?」
「やっぱり少しは怖いよ。もしまたフラッシュバックを起こしたら、台無しになっちゃうかもって。
だけどそれは征治さんもなんだ。僕に触れながら、いつもどこか怯えてる。さっきだってそうだ。
でも僕がパニックを起こしたっていいじゃない。征治さん言ったじゃないか、3歩進んで2歩下がっても1歩は進んでるって。
僕がパニックを起こしても、前みたいに落ち着かせてくれるでしょ?僕の意識外のところでそういう反応が起きても、前みたいに征治さんが呼んでくれたら僕はきっと戻ってこられる。
僕が嫌な経験を思い出しても、その上に何重にも征治さんが上書きしてくれたらいいんだ」
胸元でまだうーうー呻っている陽向を抱き寄せ、なだめるように背中を撫でる。柔らかい髪に鼻を埋めて、大きく息を吸った。
「そっか・・・そうだね」
俺が怯えているという指摘は図星だった。涙を流して暴れたり、小さく丸まってがくがく震えている陽向の姿が脳裏に焼き付いていて、その痛々しい姿をもう見たくないとどこかで思っていたのかもしれない。
そして・・・俺が思っているより陽向はずっと強かった。
陽向が俺の体に腕を回し、頬を俺の胸に摺り寄せた。
「僕は・・・征治さんが、欲しいよ。征治さんは?」
そのストレートな言葉にぐっと心臓を鷲掴まれた。
ぐるんと体を返して陽向を仰向かせ、上から見下ろし目を合わせる。
「欲しいよ。ずっと前から、ものすごく、陽向が欲しい」
泣き笑いのような顔をする陽向に引き寄せられるようにキスをした。
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