46 / 144
第46話
一見、陽向はもう眠っている様に見えたので起こさないようにそっと隣に潜り込めば、もぞもぞと動いていつもの抱き合うポジションに落ち着こうとする。
そして「がんばった・・・」と呟くので、思わず吹き出してしまった。
陽向の瞼が持ち上がる。
「ごめん、起こしちゃったね」
「違う、頑張って起きてたの」
眠たい時の子供みたいな言い方と、ちょっととがらせた唇が可愛すぎる。
「そっか。ありがと」
額にキスをすれば満足気な顔をするのが堪らない。
「ねえ陽向、念のために聞くけど、さっき少しも嫌悪感が沸いたりしなかった?」
「全然。大丈夫だったよ。夢中でそんなこと思い出す暇無かった。ふふふ、征治さん、たくさん予習って・・・どんな予習したの?とても男相手が初めてとは思えなかったよ?」
「ちょっと待って。俺の名誉のために言っとくと、実習はしてないよ?」
「くふふふ」
「今までの数限りない妄想が非常に役に立った。脳内シュミレーションが完璧だったんだな」
「ふははは」
「って、さっきのがなんとか合格点って前提で話してるけど、落第点だったらちゃんと言って。今後に生かすから。復習も怠りません」
「あははは。そんなの・・・さっきの僕を見てたらわかるでしょ。凄く素敵で幸せな時間だった」
「うん・・・俺も素晴らしかった。正に身も心も満たされた。だけど・・・」
「なあに?」
「んー、恋愛的にも性的にも?素晴らしい体験で、本当なら・・・んー、ぴったりくる言葉が浮かばないけど・・・もっと色っぽいムードで満たされてそうな筈なんだけど、それ以外に何というか大きな仕事をやり終えたあとの達成感みたいなものがある。
あ、決して陽向を征服したとか、男相手でもちゃんとできたとかそういう意味じゃなくって・・・そう、大きな壁を乗り越えたって気がしてるんだろうな。それも二人で一緒に」
「それは、僕も凄く感じてる。今の自分はもう昨日までの自分じゃないって気すらするよ。だけどこの壁は、きっと征治さんとじゃなければ乗り越えられなかった。征治さん、ありがと」
「いや・・・俺より陽向だよ。陽向は強くてカッコいいよ。告白の時も、今夜のことも・・・大事なところは全部陽向が頑張ってるんだ。俺、しっかりしなきゃね」
「それでもやっぱり征治さんとだったからこそなんだ。どんな僕でも受け止めてもらえるっていう絶対的安心感があるから」
そう言うと陽向はぎゅうと抱きついてきた。
「征治さん、・・・大好き」
俺も陽向を抱き返す。
「俺もだよ、陽向。愛してるよ」
はぁと甘い吐息の後、陽向がより一層甘えるように額を摺り寄せた。
ゆっくり陽向の背中を撫でていると、やがて呼吸が少しずつ長くゆっくりとしたものへと変わってゆく。
「・・・征治さん・・・バルチスタン・・・コミミトビネズミ・・・可愛いね・・・」
最後にそう呟くと、すぅーっと深い呼吸に変わり、陽向はストンと眠りに落ちていった。
ともだちにシェアしよう!