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第48話 <第5章>
時間を掛けて探した甲斐あって、二人の好みにあうマンションが見つかった。
場所は、いつも僕が窓から見下ろしている公園のそば。
23区内と言っても郊外の住宅地にあたる場所にあるこの公園は外周が3キロ近くあるので、征治さんは必ず見つけられるはずと最初からエリアをほぼ公園周辺に限定していた。
都会のオアシスだから、周りのマンションは皆公園側に大きく広い窓を取り、その眺望をウリにしている。
僕たちが(主に征治さんが)気に入ったマンションは公園からワンブロック離れるが、前に視界を遮る高い建物がなく、5階のその部屋からでも公園の木々と芝生広場が良く見えた。
征治さんが特に気に入ったのは、公園側にリビングとその横に6畳ほどの部屋が並んでいて、その先に二部屋分のベランダが長々と続いているところだ。
「陽向の仕事部屋にうってつけだね。明るいし、景色もいいし、静かだし。キッチンも風呂も広い」
征治さんは満足気に頷いていた。
でも、その前に大問題があるんだけど?
明らかにファミリー向けの2LDKで、環境も良い築浅マンションの最上階・角部屋となれば当然それなりの家賃なわけで。
征治さんの会社の規定の詳細は聞いていないが、勤続年数何年以上と世帯主という条件を満たせば、社員の階級に応じて賃貸マンションの家賃補助が出るらしい。
社員の階級に応じて借りられる賃料の上限が決まっていて、征治さんの場合は階級が高いこともありかなりの額で、それだけでも僕はびっくりしたのに、その内6割は会社が負担してくれるんだそうだ。
でも、この部屋の賃料はその上限額から更に4万円もオーバーしている。上限額を少しでも超えていたら借り上げ社宅の対象にならないのに。
まさか征治さんがそんな大事なことを忘れているはずは無いと思うけど・・・。
「陽向もここが一番気に入っただろ?ちょっと待ってて。上手くまとめて見せるから」
そう言うと、なにやら不動産屋さんと相談し始めた。
今までの物件巡りで、征治さんの言うように少しは家賃を負けてくれるところもあると知ったが、征治さんの眼鏡にかなうような物件はそれでもせいぜい1万、よくて2万だ。
4万はさすがに厳しいんじゃないだろうか。こんな好物件、わざわざそんな値引きをしなくてもすぐに借主見つかりそうだし。
不動産屋さんがどこかへ電話を掛け、途中から征治さんに替わって話し込んでいるので、僕はテラスに出て眼下に広がる公園を眺めて待っていた。
確かに素敵なところだけど、僕にはどうも分不相応な気がしてしまう。
そんなに無理しないでも、もっと控えめなところでいいよと部屋の中の征治さんに言おうと振り返ると、ガラスの内側で征治さんもこちらを振り向いてニッと笑った。そして右手の親指をぐっと立てて見せた。
え?まさか?
手招きされ部屋に入ると「上手くいった」と征治さんが笑った。隣で不動産屋さんもニコニコしている。
いったいどんなマジックを使ったのだ。
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