49 / 144

第49話

その種明かしは、その後不動産屋の事務所で手続き書類が用意されるのを待つ間に聞かされた。 「あのマンションのオーナーは、あの辺り一帯の地主なんだな。マンションに設置されてる駐車場はもう一杯で、他に車を置くところを借りなきゃいけなかったんだけど、同じオーナーがやってる駐車場がないか聞いてみたんだ。案の定、すぐそばに月極駐車場を持っててさ。で、そこも借りるからちょっと協力してくれって頼んだわけ。 マンションの賃料はまず2万円値引きしてもらって、オーバーした残り2万は個人で契約する駐車場の方に上乗せして払うから、契約書面は会社の規定通りの額面にしてくれってさ。 ついでに言うと駐車場も元々2万円だったところを1割引いてもらったから、実質の負担増は1万8千だね。それで、あの部屋に住めるようになるなら安いもんでしょ? それにね・・・」 そこへ、書類を手に不動産屋さんがテーブルに戻って来た。 「こちらの仲介手数料も、きっと協力していただけるから」 そう言ってキラキラの王子スマイルを担当者に向ける。 僕と同年代であろう男性の担当者は、征治さんからのビームを受けて「ひいぃ」と少し押されるように顎を引き、 「いや、あの、仲介手数料には規定がありましてね、物件の賃料に対し・・・」 「知ってますよ、規定があるのは上限だけって。それに駐車場も御社のお取り扱いになりますし、値引き交渉の一部は私自身がしましたしね」 またキラキラビームを浴びせられ、タジタジになった彼は結局仲介手数料の値引きを約束させられていた。 不動産屋からの帰り道、「やっと陽向との愛の巣が決まった」と征治さんは上機嫌だった。 「征治さんて、本当に何でも知ってるね」 「ん?さっきのこと?ああ、あれにはワケがあるよ。単に俺が貸主の立場だったことがあるからなんだ」 「貸主?」 「ほら、じいちゃんは大地主でもあっただろう?」 それを聞いて合点がいった。 確かに松平家はあの屋敷の他にも不動産を沢山所有していて、貸しビルや駐車場もあったはずだ。 もっと言えば、僕たちが通っていた市立の小学校の校庭部分は、昔、市から頼まれて松平家が寄贈した土地だというのは地元の人なら誰でも知っている話だった。

ともだちにシェアしよう!