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第50話

「じいちゃんから、母さんへ、母さんから俺へ。不動産は殆ど俺が相続したんだ。母さんが亡くなった時には勝は蒸発しちゃってたからね。 屋敷は市に寄贈して、あとの不動産は殆どすぐに売り払った。社員の退職金や相続税に現金が必要だったから。 だけど個人に貸してる貸家やそれに付随する駐車場はすぐには処分できないのもあって、借家人が変わるまで、俺がオーナーだった時期があるんだ。オーナーにしてみれば、家の賃料でも駐車場の賃料でも入ってこれば同じなのはわかってたから。それに法人と契約の方が何かと安心だから借り上げ社宅って言うのはオーナー喜ぶんだよ」 なるほど、そういうことだったのか。 でも、オーナー側の事情が分かっていたって、しっかり値引きさせつつ、あんな提案をさっさと交渉して取りまとめてしまうなんて、やっぱり凄いと思う。 「ところでさ。山瀬さんに陽向と一緒に暮らすことにしたって報告したら、新居に呼べってうるさいんだよ。もちろんキッパリ断ったけどね。 そうしたら、今度は陽向の『カシカカノウ』出版祝いを兼ねて三人で飯を食いに行こうって駄々っ子みたいに聞かなくてさ」 「ふふふ、征治さん社長に対して辛口過ぎ。有難いお話だよね」 「あ、じゃあ付き合ってやってくれる?また『ひなたん、ひなたん』って煩く絡んで来る可能性大だけど」 「喜んで」 山瀬さんのことは好きだ。奢ったところがなく、時々子供のように僕や征治さんをからかって遊ぶけれど、本当は器の大きい切れ者だと分かるし、何より温かいハートの持ち主だ。 引っ越しの日程は、征治さんの都合に合わせて決めてもらうことにした。僕はもう通院もしていないし、動かせないスケジュールは殆ど無い。 僕の方が時間があるから何か手伝おうかと言った時には、既に征治さんが手際よく全ての段取りを進めていて、11月の中頃に新しい部屋へ移ることになった。

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