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第68話

『それで、奥寺さんとおっしゃいましたか?残念ながら今、私はあなたが本当に同窓生であるかどうかは確認しようがありません。が、そうだと前提して、あなたの本題はなんなんですか?』 征治さんの凛とした、しかしどこか冷たさのある声。 『松平さん、あなた今は名前を変えているけど、色々不祥事を起こして逮捕された慶田盛議員の息子さんですよね。あの当時はかなり学内でも話題になってたようですね』 『それが、何か?』 『最近ユニコルノさん、えらく調子がよさそうじゃないですか。社長さんもしょっちゅう雑誌に載ったりして。で、松平さんはその社長の切れ者秘書なんですよね。おまけに見栄えもいいし連れ歩く社長も鼻が高いでしょうね』 『本題は何でしょう?』 『そんなある意味広告塔のような秘書が実は犯罪者の息子だと知ったら、社長さんがっかりされるでしょうねえ』 これは・・・もしかして、恐喝? ぞわぞわと足元から這い上がってくる言いようのない不快感に、思わず隣の山瀬さんを縋るように見てしまう。 だが山瀬さんは落ち着いた様子で、瞬きだけで大丈夫だと伝えてくる。 確かに、山瀬さんは慶田盛さんの話なんてとっくに知っているんだったと、少し冷静になった。 『ふふ、まどろっこしい方ですね。時間も無いので単刀直入にお願いします。なんなら、その先は私が代わりに言いましょうか? 奥寺さんは今、少々経済的に困っておられる。そこで、弱みを握った私に少々用立てて欲しいと。 どうされました?最高学府を出て入られた会社が倒産したというケースはあまりなさそうですよね。 ギャンブルか女性で身を持ち崩されでもしましたか? それを、会ったことも無い私に尻拭いをしろとおっしゃるんですか?』 征治さんの声も落ち着き払っていて、いやそれ以上に好戦的ともとれる口調だ。 観葉植物の間から窺う表情も完璧な王子スマイルを湛えている。 『違う!ギャンブルでも女でも無い!これでも私は自分で立ち上げたベンチャー企業の社長だ!ただ、ちょっと今・・・』 『ほう、どうされたんです?そもそも、どんな会社を作られたんです?』 そうか、さっきの煽るような物言いは、相手から情報を引き出すためだったんだ。 その証拠に、男は征治さんが次々と繰り出す巧みな誘導尋問に、自分は大学時代から注目を浴びていたバイオ関係の研究をしており、当時は「産学連携」を掲げていた大学の研究室と企業との共同研究の中心的メンバーの一人だったこと。 その流れで卒業後、大手企業のサポートを受けてベンチャー企業を立ち上げたこと、だが企業は必要な研究データだけ手に入れると、手のひらを返したように引いていき、現在資金繰りに困っていることなどを、つっかえつっかえ説明し続けている。

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