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第69話
『そうですか、それはお気の毒でしたね。ですが、それを私になんとかしろとおっしゃるのは、やはりお門違いなのでは?』
征治さんの台詞に、男は自分がすっかり相手のペースに乗せられていた事に今更ながら気付いたようだった。
『金融機関は勿論回った。だが、現在貸し剥がしを受けているような状態なのに、貸してくれるところなんてどこにもない。街金なんて手を出したらお終いだって事は分かっている。だから、松平さんに頼みに来たんだ』
『頼みに?脅しにじゃないんですか?そもそも奥寺さんは数々の勘違いをされているようですが、それは後で説明しましょう。
あなたが私のところへやって来た理由はこうです。
奥寺さんは地方出身だ。イントネーションからも分かります。きっと子供の頃から優秀で学校や地域でも「良くできる子」で有名で、ご両親の自慢の息子だったでしょう。
誰もが知るT大に入って、その中でも注目される研究成果を上げ、ベンチャー企業まで立ち上げた。帰郷されるときは故郷へ錦を飾るぐらいの感じだったんじゃないですか。
そんな自分が、倒産の危機に瀕している。プライドの為にもなんとか持ちこたえなければならないし、プライドのせいでご両親や親戚に縋り付くこともできない。
T大と言ったって、居るのは天才ばかりじゃない。むしろ、そんなのはほんの一握りであとは努力家ばかりでしたよね。
きっとあなただって、ずっと努力をしてきたはずだ。なのに、都会の狡猾な大人たちにいいように利用されて放り出され、その理不尽さに煮え湯を飲まされる思いだったでしょう。
そんなとき、ふと目にしたユニコルノの記事か人づてに聞いた話から、在学当時噂を耳にしたことがある慶田盛がそこでいいポジションを持っていることを知った。
父親が犯罪者のくせに、名前を変えて誤魔化し、美味しい汁を吸っている。しかも、慶田盛は相当なボンボンだったと聞く。
ITベンチャーならきっと給料以上にストックオプションなんかも貰っているだろう。
自分はこんなに不運に見舞われたのだ。少しぐらいたかったって、バチは当たらんだろう。
まあ、こんなところじゃないですか?』
立て板に水のように分析結果を話す征治さんに、男は『ぐっ…』と詰まったままだ。図星だったのか、当たらずも遠からずと言ったところなのか。
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