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第70話
『さて次は、先程言った、奥寺さんの勘違いを正していきましょう。
私の事を多少の小金持ちだと思われているのなら、それは違います。
役員の肩書がついていてもまだまだ小さな会社で、肩書を持たない者より多少色が付く程度。ストックオプションも持ってはいますが、当社は当分上場する予定もないので現在は何の資産価値もありませんし、仮に上場したとしても課税の問題や、役員には色々制約があります』
『だけど、あんたの実家は地元じゃ知らぬ者がいない程の資産家なんだろう?ポンと豪邸を市に寄贈したりできるぐらい』
『それも勘違いです。私が自分の生まれ育った生家を寄贈しなければならかったのは、膨大な相続税と固定資産税が払えなかったから。
そして、父の会社が倒産したため、それ以外の相続財産は取引先への支払いや従業員への退職金に全て消えました。税務上の問題から父が私からの借入金で払ったことになっていますが、当然父から回収できる見込みは全くありません。
さて、最大の勘違いはここからです。
社長の山瀬は私の過去を全て知っています。というより、父親の前科のせいでどこにも就職できずにいた私を自分のところに来いと拾ってくれた懐の広い人です。ですから、慶田盛の父のことは何の脅しにもなりません』
『そ、それでも、取引先や銀行なんかに知れたらマズイんじゃないか』
『さて、それはどうでしょう?私が犯罪者なわけでもありませんし。
それより、私はある意味驚いていますよ。仮にもT大出で、社長までされている奥寺さんのリサーチの甘さに。
私の資産状況や、学生の頃からの私と山瀬の交友関係など調べればすぐに分かる事です。あまりに稚拙で杜撰ずさんだ。
あなた、追い詰められて酒かドラッグに溺れているんではないですか?正常な判断が下せない状況なのでは?』
『う、うるさい!こっちにはまだネタがあるんだ!
松平さん、あんた、ゲイだろう。
毎週末、綺麗な顔した男があんたのマンションに泊まりに来てるだろ?一緒に出掛ける時もある。いつも、メガネとかサングラスを掛けてて変装してるところを見ると、相手はタレントかなにか有名人なんじゃないのか?』
突然飛び出した自分の話題に、心臓がどきんと跳ねた。
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