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第78話
年末年始には、勝を部屋へ呼んだ。
実家と呼べるものが無くなった俺たちは、皆、正月も一人でやり過ごしてきた。
勝が嫌がらなければ呼んでやりたいと言うと、陽向は一も二もなく賛成した。
最初は少し遠慮していた勝だが、30日の夕方、大きな荷物を抱えて現れた。
前日にも農産物をどっさり詰め込んだ宅配便が届いていたので一緒に送ればよかったのにと言うと、勝は苦笑いで説明した。
いつも一人で正月を過ごす勝に、付き合いのある農家の人達がお節料理などを分けてくれたりするので、年末の挨拶回りで今年は兄の家に行くと伝えたら、あちらこちらで土産を持たされたのだそうだ。
自分のところでついた餅や手作りの漬物や味噌など、素朴でありながら温かみのあるものばかりだ。
「勝君、みんなに愛されてるね。こっちのお土産いっぱい買って帰らないとね」
陽向が言うと、
「田舎は人づきあいが良くも悪くも濃いからな」
と照れ臭そうに頭を掻いた。
「あっちの人達にとって正月は特別なんだ。遠くに住んでる子供や孫が帰って来るって指折り数えてさ。12月に入るとクリスマスより年末年始の準備でそわそわしてるっていうか。
それで毎年、お前はどうするんだなんて聞かれて・・・周りがはしゃぐ分一人が身に染みて・・・雪も降るし、いつも年末年始は酒と食材買い込んで部屋に籠ってた。
だから、今年はこっちに呼んでもらえて嬉しい」
最後、はにかむ様に言う様子に、かつての弟の姿を見た気がして
「これから毎年一緒に過ごそう」
と自分より高い位置にある頭をぽんぽん叩くと、陽向も「そうしよう、そうしよう」と勝の腕をぶんぶん振った。
殆ど東京を知らない勝と陽向を、リクエストに沿って浅草やスカイツリーに連れて行き、勝が土産を買うのにも付き合った。
夜は勝がたくさん送ってくれた野菜で鍋を作って三人で突いたり、簡単で美味しかったからどうしても勝に教えたいと陽向が言うので、また炊飯器ローストビーフを作ったりした。
年越し蕎麦も食べ、元日には近場の神社に初詣に行き、雑煮も食べた。こんなに年末年始らしい過ごし方をしたのは久しぶりだと三人で笑い合った。
俺や勝に付き合って酒を飲んでは、一人ですぐに酔っ払い、ソファーに転がされる陽向を見て勝が「びっくりするほど酒が弱いな」と笑う。
「今回ここへ来て、陽向のガキの頃を思い出したよ」
飾られている小太郎と写っている写真を見ながら、しみじみ勝が言う。
「子供の頃はよく喋ってヘンテコな替え歌を歌って、コロコロ笑ってる奴だったよな。
前に謝罪で再会した時は、青っ白くてマスクで顔を覆って俯きがちだった。また昔みたいに冗談を言ったり屈託なく笑えるようになったのは、きっと兄貴のお陰なんだろう。
口がきけなくなってからあいつにはずっと陰みたいなのが付き纏ってたけど、今の陽向にはそれがない。兄貴の元で安心しきっているのがわかるよ。
陽向も言ってたけど、色々あるトラウマも少しずつ良くなってきてるんだろ?もう、伊達メガネだけで外に出られるみたいだし」
「ああ、陽向は随分強くなったよ。今度、空手も始めるらしい」
「空手!?なんでまた」と勝が大仰に驚き、笑い出した。
「陽向を変えたのは俺だけじゃない。いろんな人に支えられて刺激を受けてるんだ」
勝に説明しながら、なぜか胸が棘でも刺さったようにチクチクした。
「こんなに楽しかったのは久し振りだった。ありがとう」
2日の朝、そう言ってたくさんの土産を抱え、勝は帰っていった。
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