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第92話

店の入っていたマンションが無くなっているので、中に入っていた賭博場や僕の働いていた店の事務所は近隣に移った可能性が高いと、田中さんと周辺の聞き込みに回った。 田中さんは聞き込み用の名刺を何種類も持っていた。それは、探偵社であったり、弁護士事務所と契約している調査会社だったり、保険の調査員だったり。相手によって使い分けていた。 そして驚いたことに、僕の分まで名刺を作ってあった。雑誌の記者という肩書とNPO法人のスタッフというもの。 ただ、素人なうえにコミュニケーション能力の低い僕は当然田中さんの様にうまく立ち回れないので、主に役所や図書館のデータベースを調べに行く方を担当した。 夜に宿泊先の狭苦しいビジネスホテルの部屋で、情報の共有や翌日の行動の相談をする。 「時間が経っている上に、入れ替わりの激しい業界とは言え、急にプツリと情報が途絶えている気がするな。それに、あの界隈、当のビルを含めて、ここ数年のうちに建て替えたような建物が多い。もしかすると、行政の再開発指定地区みたいなのに入ってるかもしれないな」 「僕も今日、家出して暫く過ごしていた高架下の辺りを見に行ってきたんですけど、なんか綺麗になってました。公園スペースみたいなもの作られてて、でも夜間は人が入れないように策と鍵付きの門がつけてありました。前は僕みたいな居場所のない若者たちがたむろしている場所が何ヶ所かあったんですが」 「それに、地元の不動産屋に話を聞きに行ったとき、なんか歯にものが挟まったような物言いだったのが気になったんだ。何度かプッシュすれば、裏からネズミが出てくるかもしれないな。危険も伴うから、今回は慎重に動かないとならないが」 「今回は?」 「あー、今回は風見君がいるから。俺は一匹狼でいつ死んでもいいと思いながら生きてるけど、君はそうじゃないだろ?待ってる人だっているだろうし。翠ちゃんからも君を危険に晒すなときつく言われてるしな」 いつ死んでもいいなんて、それほどの覚悟でやっているという言葉の綾だろうか?そうでなければタフに見えるこの人も内側に闇の様なものを抱えているのか? 僕は絶対に今、死にたくない。 そもそもが、征治さんの隣にちゃんと立って生きていくために起こした行動だ。それに、もし僕に何かあったら、きっと征治さんが悲しむ。 だから、なるべくリスクは冒さないで別のアプローチを考えようと田中さんに訴えた。 「芹澤の方を先に探してみましょう。芹澤が事務所に来ているのを何度か見掛けていたんです。なんらかの関わりがあったはずです。芹澤に接触できればペットの方の話も聞けるでしょうし」 芹澤は比較的簡単に見つけられた。芹澤が営んでいた闇金が今でも残っていたからだ。 ただし、芹澤は健康上の理由から代表を降り、実質的には会社を他人に売り渡していた。 そして芹澤本人は、下肢大動脈のバイパス手術の為、ちょうど入院中だというところまで掴んだ。これは安全に接触する絶好のチャンスかもしれない。

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