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第99話

「こんにちは。どうしたんですか?今日は体調がよくありませんか?」 やけに暗い顔をしている芹澤に声を掛けた。 「いや、大丈夫だ。なあ、お前・・・毎日そんな平気な顔でやって来て、律儀に俺の話し相手して・・・ほんとは顔を見んのも嫌なんじゃねえのか。俺の事、恨んでんだろ?」 「だって話し相手しないと、教えてもらえないんでしょう?僕だって必死なんですよ」 「じゃあ、もし俺が今ここで全部話したら、さっさと俺を()って出てくか?」 どうしたというのだろう。 「なんで、そんな物騒なこと言うんです。まだ僕がどこかの組と繋がっているって疑っているんですか?」 「や・・・そうじゃねえけど・・・昨日、お前が帰った後、看護婦が『最近お見舞いの方来られてますね。お話弾んで楽しそう。息子さんですか?』って聞かれてよ。いや違う、あれは・・・ってその後なんて言やいいのか、わからなかった。 俺が首輪つけて鎖で繋いで飼ってたペットですなんて・・・言えやしねえし・・・ お前がトラウマに苦しんだ話を思い返して・・・あれから随分経つのにずっと色々障害が残ったまんまで・・・俺は恨まれてるよなって」 反省したというのだろうか?というより、自分がしていたことがどういう事だったのかようやく理解したのかもしれない。 「芹澤さん。せっかくの機会ですからはっきり言わせてもらっていいですか。 あなたは生業なりわい自体が違法なものだったから感覚がおかしかったのかもしれませんけど、同意も無くペットとして人を飼うなんて犯罪ですよ。未成年を監禁して、ドラッグを飲ませて。薬で眠らせて人の体に勝手に刺青を彫ったり、脱毛させたり。全部アウトです。 芹澤さんが僕にしたことは、僕に深い傷を付けました。生きる希望を失くしていた僕に酷い追い打ちをかけました。きっと他のペット達もあなたが思う以上の苦しみを受けたはずです」 ここまではっきり言ってしまうと、怒らせてしまうかと思ったが言わずにはいられなかった。 だが、芹澤は項垂れたままだ。 「言い訳に聞こえるだろうが・・・カメラで四六時中監視したり、刺青彫ったりしたのは、お前だけだ。 俺はお前のことが一番気に入ってたんだ。特別可愛かったし、なんか守ってやらんといかん様な儚さもあって、お前が売り専やってる時から気になってた。 だからお前が刺されたせいで買い取ることが出来て、俺は有頂天だった。なのにお前はだんだんおかしくなって・・・物を買い与えても、逆に脅しても、媚びる素振りすら見せねえし、こっちを見ろって自分でもおかしいぐらいに執着しちまって・・・」 「あなたに与えられた苦痛のせいで僕はずっとまるで逃亡犯みたいな生活でした。太陽の下を堂々と胸を張って歩くことは二度とできないと思ってました。 だけど、ずっと恨んでいたかと言えば・・・どうなんでしょう。 もし芹澤さんが、僕が刺された時あの店から買ってくれなければ、僕は耐えきれなくてもっと早く同僚の様に飛び降りていたかもしれません。 それに・・・僕は当時、僕の容姿の変化が気に入らなくて、つまり好みのおもちゃじゃなくなったから、沢井のところに売られたんだと思ってた。 でも、恋人が言ったんです。自分の手元に置いておくと僕が死んでしまうかも知れないから、僕の為を思って手放したんじゃないかって。 それを聞いてから、あなたの不器用さを色々思い出してなんだか憎めなくなってしまいました。 勿論、あなたの事を全面的に許すことは出来ないけど、ここにきてあなたと話して、今は・・・寂しくて可哀そうな人だって同情もしています」 芹澤はハッと顔を上げ、なんともいえない表情をした。

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