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第100話

「・・・なあ、・・・昔、仕込んだ株が大化けして、それなりの金がある。それとあのマンションも買ったもんだ。抵当もついてねえ。俺が死んだら、全部お前にやる」 「・・・それは、償いのつもりですか?僕はお金も不動産もいりません。芹澤さん、もし少しでも悪かったという気持ちがあるなら、協力してください。 僕はあの当時のことが原因でどうしても自分に自信が持てない。だけど、もう情けない自分とは決別したいんです。 でも過去の自分の行いを遡って正すことはできない。だったら僕ゆえに出来ることで、僕が自分をちゃんと認められる事をしたい。  今、僕と同じ目に合っている、若しくはこれからそうなってしまいそうな未成年を助けたい。自己満足の代償行為かも知れけど、今、僕にはこの方法しか思いつかないんです」 芹澤は病気のせいで一時的に気弱になっているだけかもしれない。だが、その隙に付け込むようでもこれはチャンスと捉えようと、僕は説得を続けた。 「明日、そのジャーナリストも一緒に連れてこい」 そこまで言ってくれるとは思っていなかった。すぐに連絡を取ってみると答える。 「最後に、なにか楽しい話をしていけ」 「楽しい話・・・じゃないかもしれませんけど・・・ 昨日、飼い主が死んでしまった場合ペットがどうなるのか調べてみたんですよ。孤独死した老人の傍でペットが餓死していたり、処分場へ送られてしまうケースも多いみたいですけど、ちゃんとそういうペットをサポートする団体がもうあちこちにあったんです。 事前に登録して信託財産を預けておくと飼い主の死後、里親探しをしてくれて、そのペットの飼育料として里親に支払われるところもあるみたいです」 「ふん、そんなの飼い主は死んでるんだから、ちゃんと契約が履行されるかどうかなんてわかんねえじゃねえか。裏社会の奴なら、金だけ預かってペットも放置で挙句、行政が殺処分って美味しい商売にするだろうな」 「僕もそう思いました。そういう悪徳団体を見分けるにはどうしたらいいと思います?芹澤さんなら抜け穴の無い監視が行き届くシステム、どう作ります?」 「はあ?」 「考えてくださいよ。そうしたら、安心して犬が飼えるでしょ?」 「はああ?」 「考えておいてくださいね、宿題ですよ」 そう言いおいて病室を出ると、背後で芹澤が「ぶはっ、なんだあいつ!」と吹き出す声が聞こえてきた。

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