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第101話

田中さんは予想以上の急展開に驚きつつも、翌日の始発の新幹線でこちらに駆けつけてくれた。 そして、プロのインタビューを目の当りにして、僕は田中さんに同席して貰って正解だったとつくづく思ったのだ。僕ではああはいかない。 芹澤の話によると、この辺り一帯の勢力図がここ数年で一変したらしい。 元々、このエリアは土着のヤクザが仕切っていたのだが、関東からやって来た新勢力にあっという間にシマを奪われた。その新勢力はインテリヤクザと呼ばれる類たぐいらしいのだが、実行部隊として中国語を喋る集団を従えているらしい。 両者の間には数年間のうちに激しい抗争があったようだ。 「かなりえげつないやり方だった。暴力団らしいドンパチなんかじゃない、一見事故死に見える変死が相次いだ。組員が4人、系列の店の従業員が2人。 少なくとも、それだけ死んだ。何より、周りを震え上がらせたのは組とは直接関係ない地主が2人も変死したことだ。シマの中の組の息のかかった店が集中する当たりを強引に地上げして、邪魔な奴は消したんだ。お前がいたあのマンションもその一角だ。 一般の地主が殺られたことで、周辺の地権者や住民は完全にびびっちまった。 それに加えて密かに囁かれてるのが、行政との癒着だ。 今、2期目に入っている知事がいるんだが、そいつの掲げた公約がここら辺りを第二の歌舞伎町にするってやつでな。 昔はアングラ何でもありだった新宿の歌舞伎町が、都知事の掲げた浄化作戦ですっかりクリーンな街に変ったんだろ?それを目指してんだとよ。 で、奴らが地上げしたところにどんどん新しい建物が建っていくのが、あまりにも都知事の政策に時期的にも場所的にも合致してるって噂になった」 「そんなに人が死んでるんですか・・・犯人は捕まったんですか?」 「それが、中国系のヤバいところだ。実行犯の奴は仕事が終わるとすぐに中国へ跳んじまうらしい。代わりの兵隊はいくらでもいるしな」 なるほどというように田中さんが頷く。 「芹澤さんは危なくないんですか?」 「・・・俺は運が良かったのかもしれん。元々お前の居た店を仕切ってる奴らは、組の直系じゃなく、後から取り込まれた系で関係は薄かった。俺は、あいつらのやってる賭博場で負け込んだ奴に金を貸してた。 ちょうど抗争が激しくなり始めた頃、心臓やられてぶっ倒れてな。手術したりやなんかで入院が続いて、ファイナンス会社は人に任せたんだ。任せた奴がうまい具合に、ごたついてる間に組との縁を切った。 今はすっかり新勢力がここらを支配して落ち着きを取り戻してるから、今更俺を狙ったりせんだろう」 「それなら良かったです」 安心してほっと息を漏らすと、芹澤が変な顔をした。 僕にとっては朗報とは言えなかったかもしれない。 あのマンションを仕切っていた組織は抗争が激しくなり始めると、とばっちりを避けるため賭博場は一旦閉めた。 風俗店とボーイのデリバリーは移転したらしいが、街の不穏な空気のせいで風俗店への客足は遠のき、男娼の方も街が新勢力に押さえられているため、新たなボーイ、つまり僕の様に若者を騙して借金漬けにしたカモを調達することが困難になったそうだ。 ネット詐欺などの地下に潜る全くの新業態にするかと顔見知りのメンバーがボヤいていたらしい。 「なあ、お前のやりたいことも分からんではないが、もうあの店の事を、いや、ここらを嗅ぎまわるのはやめておけ。たぶん、あの店はもう無い。 それに今度の奴らはマジでヤバい。中華系の奴らは日本人を()るのにまるでためらいがない。 前に中華系の窃盗集団が近辺を荒らしまわった時があったんだがな。侵入しているときに家人に遭遇しても、逃げるどころかバールで頭蓋骨陥没するまで殴ってゆうゆうと盗みを働いていくと警察関係者が言ってたぞ。 実際に一般人だった地主も殺されている。リスクが高すぎる。やめておけ」

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