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第112話  <第10章>

ああもう、このエレベータってこんなにゆっくりしか動かなかったっけ? 意味も無くもう一度5階のボタンを押す。やっと5階に到着し扉が開くと同時に飛び出すと、早足どころが小走りで一番奥のドアを目指す。 ドアベルを押そうとしたところで、ガチャと内側からロックを外す音がした。 勢いよくドアを引くと、中にはずっと見たかった優しい笑顔。 あれ?見ない間に髪が伸びたかな? 「征治さん、ただいま!!」 荷物を放り出しその胸に飛び込んだ。 僕を受け止めた征治さんは耳元でクスクス笑いながら 「陽向、ドアに鍵かけて。ほら、靴も脱いで」 なんて言う。切羽詰まるほど会いたかったのは僕だけなの? 「うー、後で。今、充電中だから」 そう言って、胸いっぱいに征治さんの匂いを吸い込む。はあああー、これ、これだよ。 安心する匂いに癒され、いつまでもくんくんしていたら、「陽向、おかえり」と頬にチュッ。 もっとちゃんとキスして欲しくて、言われた通りにドアに鍵を掛け靴を脱いだ。 もう一度甘えるように抱きついて「ただいま」を言う。征治さんが焦らすように自分の鼻で僕の鼻先をつんつんする。互いの唇が触れるか触れないかのギリギリで「おかえり」と囁かれ、その吐息を唇に感じてゾクリとしたところで、温かい唇に覆われた。 征治さんの唇が僕の唇の形を確かめるようにゆっくり柔らかく食む。もっと欲しくて、もっと欲しがってほしくて少し舌を出して誘うと、温かく滑るものがするりと入り込んできた。まるでお帰りと言うようにゆっくり甘く僕のものと絡められ、ここでも二人でハグし合っているようだ。 ああ、これがずっと欲しかった。 征治さん、好き。好き。 肉欲的ではない、情愛が溢れるキス。だけどとても気持ちがいい。 今、僕の脳内では幸せホルモン・・・オキシトシンだかエンドルフィンだかがいっぱい分泌されているに違いない。 甘く優しいキスに酔っていたが、さすがにぴちゃぴちゃという耳からの刺激と嗅覚を刺激する恋人の香り、背中を滑る恋人の手の感触に、体に火がともりそうになる。 長い禁欲生活だったとしても、ここでいきなり盛るのは駄目だろう。それより先に征治さんに話したいことが山ほどある。 ぐっとこらえて、唇を離し、最後にぎゅっと征治さんの体に回した腕に力を込めた。僕の意図が伝わったのか、征治さんが微笑んで耳の横の髪を優しく梳いてくれる。 「ふふ、日焼けしたね」 うん、そうなんだ。征治さんは、征治さんは・・・ そこでさっきから感じていた違和感に気付く。 「征治さん、痩せた?」 曖昧にふわっと笑った征治さんは、僕が放り投げたままの荷物の一つを持ってリビングの扉を開ける。 僕も急いでもう一つの荷物を拾い上げ、後に続いた。

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