116 / 144

第116話

山瀬さんにメッセージを送る。 『昨日、東京に戻りました。  沖縄土産を征治さんにことづけたので、  召し上がってください。』 山瀬さんはいつもレスポンスがとても早い。手が空いたら、きっと返事をくれるだろう。 読み通り、5分もしないうちにスマホが鳴りだす。しかもラッキーなことに電話だ。 『おう、ひなたんお帰り。土産ありがとうな。沖縄は仕事かなんかで行ったのか?』 「おはようございます。ちょっとプライベートな用事で行ってました」 『おいおい、まさか征治を置いて浮気旅行じゃないだろうな?』 ぶっ、なんてこと言うんだ。 「ふふふ、まさか。違いますよ」 『・・・なあ、それ長いこと行ってたのか?いつから?・・・あいつと喧嘩してたわけじゃないよな?』 なんでそんなこと聞くのだ? 「喧嘩?してませんよ?3月の半ばからあっちこっち飛び回っていて殆ど東京には居ませんでしたけど・・・」 『3月・・・そうか・・・』 「僕も山瀬さんに聞きたいことがあったんです。こっちに帰ったら征治さんが激やせしてて。仕事が忙しかったせいだってそれ以上言わないんですけど。 山瀬さんが僕に連絡を取ろうとしてた時、ほんとは征治さんに何かあったんじゃないですか?」 『えー。バラすと征治に怒られそうだよぉ・・・あいつ、怒ると怖いんだよぉ』 「教えてください。あんなに痩せて何か病気ですか?征治さん、僕に心配させないように言わないつもりかもしれません」 『いやいや、そんな大げさな事じゃなくって・・・あいつがひなたんにカッコ悪いとこ知られたくないんじゃないかなーと思って。 ・・・まあ、いっか。ひなたんにも協力してもらった方がいいよな。 あの日さ、征治の奴、会社でぶっ倒れたんだよ』 倒れた!? 『慌てて近くの病院に担ぎ込んだら、極度の過労と貧血だって。それも栄養失調を疑われるようなレベルの。 最近あいつが働き過ぎだって気付いてたのに、こりゃー社長失格だって、1泊か2泊入院させて点滴打って休ませようと思ってさ、ひなたんにあいつの事頼もうと思ったんだ。 確かに、事業拡大計画であいつに掛かる負担が大きいのは分かってたし、スピードが大事ですって言われて、ハイハイよろしくって思ってたんだけど・・・俺も、まさかあそこまでやってるとは気付いてなかったんだよ』 「あそこ、とは?」 『うちの社は問い合わせやらメンテやらあるからゴールデンウィークなんかも一斉に休みを取らないんだ。例えば今年は通常の週休2日にあと3日プラス5連休にして、各部署内で調整して休めって通達してた。それを統括してるのが人事の征治で、俺は任せっきりにしてた。今まで自己管理は徹底してる奴だったし。 征治の入院中にあいつの会社のPCの稼働やら調べてみたら、あいつこの数か月、殆ど休んでないんだよ。ゴールデンウィークも一日も休んでない。 いくら管理監督者側だから労基違反にならないとはいえ、お前過労死する気かって叱り飛ばして、今週いっぱいまで6時に退社しろと命令した。明日の土曜も出社しようとしたら、ひなたん止めてくれよ』

ともだちにシェアしよう!